シャロームの哀歌
「わしの娘を差し上げると何度申し上げても、一向に聞き届けてくださらぬ。賢人(ハハム)でありながら、子孫を残さないなどこの国の損害であると思わぬか?」
「イザク様が賢人(ハハム)……?」

 ミリは我が耳を疑った。

「なんだ、知らぬのか。イザク様はかの大戦を机上(きじょう)より見事に収めた、偉大なる策士様であるぞ」

 血の気が引いたミリに、男の声が遠くから木霊する。

「あの殲滅作戦は実に華麗かつ見事であった。犠牲を最小限に抑え、賢人(ハハム)は我が国を勝利へと導いたのだ。いや、反対意見が占めていた中、その策を推し進めた(メレフ)こそが真の救世主であろうがな」
「イザク様が賢人(ハハム)……」

 感情の乗らない言葉が、ミリの口から発せられた。

 彼こそが愛する家族を奪った張本人だったのだ。
 無情な事実が、とうに限界を超えていたミリの心を容赦なく切り刻んでいく。

「すべてを知ってしまったのか……ミリ……」
「イザク様……」


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