シャロームの哀歌
 静かな瞳でイザクは言った。その権利が君にはあるからと。

「わたしは机上(きじょう)で作戦を立て、自分は始終安全な場所にいた。ずっと良心の呵責(かしゃく)に苛まれ続け、それを紛らわせるために偽善者の仮面をかぶり戦争孤児への援助を行ってきたのだ」

 目の前にいるイザクが、どこか遠くに感じた。

 自分が愛していたのは、本当にこのひとだったのだろうか?
 このひとを愛していた自分は、本当に存在していたのだろうか?

「だがわたしの罪が消えることはない。敵とともにミリの村を焼き払う命令を下したのは、誰でもないこのわたしなのだから」

 押し込めていた憎しみ。
 子供たちの無邪気な笑顔。
 イザクへの想い。
 苦しみながら焼け死んでいった家族たち。

 がんじがらめになったミリの心は、ひび割れたままどこにも動けなかった。

「……あなたさえいなければ」
「そうだ、わたしが……あの計画を推し進めてさえいなければ……」

 やさしい手つきで、イザクはミリに短刀を握らせてくる。
 むき出しの(やいば)は、磨かれた鏡のように冷たい輝きを放つ。

「あなたさえいなければ――……っ!」

 叫びながらミリは短刀を振り上げた。

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