願わくば、再びあなた様と熱い口づけを。
「月は好きか」
不意に問いを投げかけられ、私は慌てて振り返ります。
そこには畳の上に寝転び、手で頭を支えながらこちらを見つめる景春 様の姿がありました。
私は景春 様に身体を向け、穏やかに微笑みかけます。
「えぇ。月は風情があり、美しいと感じます。まるで私を別世界へ連れて行ってくれるかのような、そんな感覚が致します」
「別世界か。お前はこの廓から抜け出たいと思うのか」
「……いいえ。私はこうして景春 様とお会い出来るこの場所を好いておりますゆえに」
思い浮かぶのは間夫と逢瀬を重ねる姉女郎の姿でした。
普段は凛々しく艶やかであった姉女郎であったが、間夫のことを思い浮かべているときはおぼこい少女のような顔をしていました。
それを見ながら私は絶対にあぁはならないと思うばかりでした。
その姉女郎が最後に残した言葉が胸に引っかかりました。
私は男を選べる女になった。
なのに心に空いた隙間は埋まらない。
あの幸せそうな姉女郎の顔を思い浮かべる度、叩き割りたくなるほどの苛立ちが募りました。
手練手管で男を虜にしてきた。
それでも満たされない。
私の心は満月とは程遠い欠けた月のようでした。
作り上げた笑顔を浮かべ、問いに答える私に対し、景春 様はどこかつまらなさそうにため息を吐きます。
立ち上がり、私の隣まで歩み寄ってきました。
こんなにも近い距離になるのははじめてのことで、思わず私は身を引きそうになりますが、そこは耐えます。
月明かりに照らされる景春 様は口の締まった雄々しい容貌をしており、たくましい印象だ。
闇色の瞳に私の姿が映り、その光景が物珍しくつい魅入ってしまっておりました。
「お前は決められた台詞しか言えない大根役者のようだな。つまらない女だ」
そう言いながらも景春 様の表情はやわらかく笑みの形を浮かべており、少し小馬鹿にしたようなものでした。
私の結い上げた髪を崩さぬよう、やさしい手つきで撫でてきました。