その笑顔を守るために
「大野先生…原田です。」
そう言って部屋に入ると、大野と共に一人の女性医師がいた。歳は瑠唯より少し上だろうか?…ショートカットのキリッとしたカッコいいと思わせる女性だ。
「おお!朝から悪いな!回診中だったか?」
「はい。加藤部長に依頼された患者さんの…」
「ああ…聞いてる。頼むな。それと…こっちは、産婦人科の佐々木先生…」と言って顎でしゃくる。
なんか失礼な態度だ!
とうの佐々木は薄っすらと苦笑いしていた。
「産婦人科の佐々木です。宜しく!」
挨拶すらカッコいい。
「五月からお世話になっております、外科の原田です。宜しくお願いします。それで…」
「ちょっと…原田先生にご相談があって…」
「はい…」
「今、臨月で入院されてる妊婦さんがいらっしゃるんですが…お腹の中の赤ちゃんに異常があって…心臓弁が上手く働いてないの。」
「新生児の心臓弁置換手術ですか?」
「ええ…さらに心房中隔欠損も見受けられて…」
「そのオペを同時に行うんですか?」
「ああ…」
そこで大野が口を挟んだ。
「そのオペ…お前にやってもらいたい。」
「私…ですか?」
「勿論俺も入る。だが、新生児の小さい身体のオペはお前の方が適任だ。…どうだ…?」
暫く逡巡した瑠唯は
「はい!全力であたらせてもらいます!」
そういって覚悟を決めた。
数日間カンファレンスを繰り返しオペを翌日に控えた昼休み、瑠唯は中庭にいる美香を見つけて声をかけた。
「美香ちゃん!」
「あっ、瑠唯先生!」
傍らには真理子もいた。
「二人で日向ぼっこ?でもちょっと日差しが強くて暑くない?」
梅雨明け間近な今日は、真夏を思わせるような日差しが降り注いでいる。
「だからいいの!お日様浴びてこんがり焼くの!入院してて真っ白の肌じゃ不健康そうでしょう?」
「まあ…そうだけど…脱水症には気を付けて…真理子ちゃんも大丈夫?」
「うん!最近ちょっと調子いいの!美香ちゃんといると楽しいし。…」
確かに幾分顔色もいい。
「そっか、でも二人ともあんまり無理しないようにね。」
「は〜い…あっそうだ!瑠唯先生、明日生まれてくる赤ちゃんの手術するんでしょ?」
「えっ?そうだけど…なんでそんな事知ってんの?」
「昨日ね…看護婦の佐竹さんに頼んで真理ちゃんと二人で赤ちゃん見せてもらったの。ガラス越しだったけどすっごくかわいかった!」
「ねー」と真理子と言い合って、笑い合う。
「そしたら隣にお腹の大きな女の人がいて…なんかちょっと泣いてるみたいだったから、大丈夫ですか?って声かけたの。」
隣で真理子がうんうんと頷く。
「私達の事見てその人が話してくれたの。お腹の赤ちゃんが病気で、生まれたら直ぐに瑠唯先生が手術してくれるって。でも凄く難しい手術で、赤ちゃん…助からないかもしれないって…泣いてた。」
とションボリ俯く。
「ねえ、先生…赤ちゃん…助かるよねぇ?」
そう言って真理子が身を乗り出した。
「先生、前に言ってたじゃない?病気は患者本人が治すんだって…
でも…生まれたばっかりの赤ちゃんにはそんな事無理だと思うの。だから先生お願い…赤ちゃん助けてあげて!私…私も治療…頑張るから!だから…だから先生!赤ちゃん助けて!」
「お願い!先生!」
美香も懇願する。
その言葉が心に染み込んで上手く言葉が出てこない。瑠唯は深々と息を吸込み
「頑張る!」と…
やっと一言、言葉を発した。
「そうだ!先生、何時もの飴…持ってる?」
「うん…持ってるよ。」
真理子に請われて、白衣のポケットから飴を差し出すと
「この飴…美味しいの…何食べても味がしなかったり、変な味だったりするんだけど…この飴だけは、ちゃんと甘くて美味しいの。」
「じゃあ今度、真理ちゃんに特別…袋ごと持ってきて上げようか?」
「ううん…一つづつ…毎日一つづつちょうだい。そしたら私、明日も瑠唯先生から飴もらえるようにって、頑張れるから」
そう言って真理子はにっこり笑った。
そう言って部屋に入ると、大野と共に一人の女性医師がいた。歳は瑠唯より少し上だろうか?…ショートカットのキリッとしたカッコいいと思わせる女性だ。
「おお!朝から悪いな!回診中だったか?」
「はい。加藤部長に依頼された患者さんの…」
「ああ…聞いてる。頼むな。それと…こっちは、産婦人科の佐々木先生…」と言って顎でしゃくる。
なんか失礼な態度だ!
とうの佐々木は薄っすらと苦笑いしていた。
「産婦人科の佐々木です。宜しく!」
挨拶すらカッコいい。
「五月からお世話になっております、外科の原田です。宜しくお願いします。それで…」
「ちょっと…原田先生にご相談があって…」
「はい…」
「今、臨月で入院されてる妊婦さんがいらっしゃるんですが…お腹の中の赤ちゃんに異常があって…心臓弁が上手く働いてないの。」
「新生児の心臓弁置換手術ですか?」
「ええ…さらに心房中隔欠損も見受けられて…」
「そのオペを同時に行うんですか?」
「ああ…」
そこで大野が口を挟んだ。
「そのオペ…お前にやってもらいたい。」
「私…ですか?」
「勿論俺も入る。だが、新生児の小さい身体のオペはお前の方が適任だ。…どうだ…?」
暫く逡巡した瑠唯は
「はい!全力であたらせてもらいます!」
そういって覚悟を決めた。
数日間カンファレンスを繰り返しオペを翌日に控えた昼休み、瑠唯は中庭にいる美香を見つけて声をかけた。
「美香ちゃん!」
「あっ、瑠唯先生!」
傍らには真理子もいた。
「二人で日向ぼっこ?でもちょっと日差しが強くて暑くない?」
梅雨明け間近な今日は、真夏を思わせるような日差しが降り注いでいる。
「だからいいの!お日様浴びてこんがり焼くの!入院してて真っ白の肌じゃ不健康そうでしょう?」
「まあ…そうだけど…脱水症には気を付けて…真理子ちゃんも大丈夫?」
「うん!最近ちょっと調子いいの!美香ちゃんといると楽しいし。…」
確かに幾分顔色もいい。
「そっか、でも二人ともあんまり無理しないようにね。」
「は〜い…あっそうだ!瑠唯先生、明日生まれてくる赤ちゃんの手術するんでしょ?」
「えっ?そうだけど…なんでそんな事知ってんの?」
「昨日ね…看護婦の佐竹さんに頼んで真理ちゃんと二人で赤ちゃん見せてもらったの。ガラス越しだったけどすっごくかわいかった!」
「ねー」と真理子と言い合って、笑い合う。
「そしたら隣にお腹の大きな女の人がいて…なんかちょっと泣いてるみたいだったから、大丈夫ですか?って声かけたの。」
隣で真理子がうんうんと頷く。
「私達の事見てその人が話してくれたの。お腹の赤ちゃんが病気で、生まれたら直ぐに瑠唯先生が手術してくれるって。でも凄く難しい手術で、赤ちゃん…助からないかもしれないって…泣いてた。」
とションボリ俯く。
「ねえ、先生…赤ちゃん…助かるよねぇ?」
そう言って真理子が身を乗り出した。
「先生、前に言ってたじゃない?病気は患者本人が治すんだって…
でも…生まれたばっかりの赤ちゃんにはそんな事無理だと思うの。だから先生お願い…赤ちゃん助けてあげて!私…私も治療…頑張るから!だから…だから先生!赤ちゃん助けて!」
「お願い!先生!」
美香も懇願する。
その言葉が心に染み込んで上手く言葉が出てこない。瑠唯は深々と息を吸込み
「頑張る!」と…
やっと一言、言葉を発した。
「そうだ!先生、何時もの飴…持ってる?」
「うん…持ってるよ。」
真理子に請われて、白衣のポケットから飴を差し出すと
「この飴…美味しいの…何食べても味がしなかったり、変な味だったりするんだけど…この飴だけは、ちゃんと甘くて美味しいの。」
「じゃあ今度、真理ちゃんに特別…袋ごと持ってきて上げようか?」
「ううん…一つづつ…毎日一つづつちょうだい。そしたら私、明日も瑠唯先生から飴もらえるようにって、頑張れるから」
そう言って真理子はにっこり笑った。