その笑顔を守るために
「おはようございます。先生…いらっしゃいますか?」

翌朝、瑠唯は大野の部屋を訪ねる。結局今朝は山川とゆっくり朝食を取り、大学病院に出向くという彼の車で髙山病院まで送り届けてもらったのだ。寮の前までと言う申し出は固辞して少し離れた人気のない所で降ろしてもらった。案の定寮の入口で滝川に出くわし、やっぱりよかったと胸をなで下ろす。

「おお…はやいな」

ソファに寝転んでいた大野が起き上がった。

「…先生…此処に泊まったんですか?」

「いや…夜中に急患で呼び出された。処置が終わったのが明け方でな…帰ってもまたすぐ来ることになりそうだったからな。此処で寝た。」

「寝た…って…先生、病…人…なんですから、そうゆうの止めて下さい。」

「なんだ、お前…主治医か?…お前に連絡が取れないからって俺んとこに来たんだぜ。お前、昨夜何処にいた。」

…げっ…やばい…

「えっ…えっと…」

「まあいい、俺はお前の保護者じゃねえからな。だが、携帯の電源は入れとけ。」

「はい…すみません。」

「で…やってくれんのか?」

「はい!全力で、オペさせていただきます。」

大野の表情がフッと和らいだ。

「なんだ…いい顔になったじゃねえか…付き物が落ちたような…吹っ切れたような…何があったんだか…」

ニヤリと笑う。

「別に…何も…ただ、覚悟が出来ただけです。」

「やっとか。」

「やっとと言われるほど、お待たせしたつもりはありませんが…」

「そうか…そうか、なら後はお前に全て任せる。」

そう言うと満足そうに頷いた。

「早速ですが、今後は診療を控えていただきます。」

「そうか…なら俺の患者はお前に任せる。」

「……わかりました。」

相変わらずの無茶振りだ。

「それと今日の夕方、院長と加藤部長にお時間をいただきました。先生も同席して下さい。」

「何だよ。、こえぇなぁー。」

「カンファレンスです!」

瑠唯はきっぱり言い切った。


その日の夕方院長室で髙山と加藤に瑠唯から事情を説明した。
二人とも目を見開いて、声も出ない。MRI画像を見て、加藤は絶句する。

「…このオペを…後遺症を全く残さず…出来るのかね?」

「出来るか?じゃなくてやるんですよ。」

大野が不敵な笑いで言い切った。

その後、治療方針、オペの方法等様々な検討が重ねられていく。

「ところで大野くん、いつ頃から自覚症状があったのかね。」

一頻りついた所で髙山が切り出した。

「今月に入ってですかねぇー少し怠さを感じて…最初、柄にもなく夏バテかと思ったんですが…そのうち感じたことのないような頭痛がして微熱も続いたもので…先週、松本教授に頼んでこれ、撮ってもらいました。」

「…そうか…松本くんの所で…何故…最初に僕に相談してくれなかったんだい?」

少し寂しそうだ。

「此方の病院で騒ぎになると思ったもんで…すみません。…ああ、ついでに松本教授に苦情も言ってきましたよ。」

「苦情…?」

全員が一斉に大野を見た。

「あの、バカ娘の…」

「その…バカ娘…さんというのは…茜先生の…ことかい?」

「他に誰がいるんです。」

そう言って、大野はニヤリと笑った。







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