その笑顔を守るために
その後二人は山川の車で髙山総合病院に出向き、瑠唯は大野の様子を診にいきたくて、先に山川一人で院長室に向かってもらうことにした。


「大野先生…起きていらっしゃいますか?」

大野は午前中に一般病棟…と言っても特別室であるが…に移されており、瑠唯が病室に入るとそこにはしおりが付き添っていた。

「おお…主治医が随分とゆっくりしたお出ましだなぁ」

…この調子なら大丈夫そうだ…

「すみません…昨夜、なかなか寝付かれなくて…お加減、いかがですか?」

「なんで寝付けなかったかは、聞かないほうがいいか?」

瑠唯は頬を染めて唇を噛む。

「私が朝顔を出した時は、うつらうつらしてたんだけど、午前中外来終わってさっき来てからはこんな感じ…」

呆れた顔でしおりが助け舟を出してくれた。

「少し診察させて下さい。」

瑠唯が大野の胸に聴診器をあてる。

「お前に聴診器あてられて診察される日が来るとはなぁ…感無量だ。」

そう言いながらも、大野はニヤニヤとしている。

「子供じゃないないんですから!止めて下さい、そうゆうの。…言葉は問題なさそうですが…頭痛は?手足の痺れはありますか?」

フっと瑠唯が点滴をしていない大野の右手を見ると、ソフトテニスのボールが握られていた。

「先生…いきなり無理しない方が…」

「ああ…無理はしないさ…頭痛は朝よりいくらかマシになった。手足に痺れはないが…むくみがあって、思うように力が入らん。」

「当たり前です。未だ術後二十四時間ですよ!少し安静にしてください。」

「安静にしてるさ。何せこれじゃ動けないからなー」と言ってカテーテルを指さす。

瑠唯が尿量を確認して

「問題なさそうなら外しますか?でも…トイレ、行けます?」

「ああ…そうしてくれ…トイレは何とかするさ。しっかし、お前に下の心配されるとはなぁ…ジジイになって介護でもされてる気分だ。」

ガハハと豪快に笑う。

…ああ…何時も先生だ…

「だから!そうゆうの止めて下さいって!後で、師長にお願いしておきますから!」

そう言って、瑠唯は大野を睨みつけた。

「主治医の先生はおっかないなぁ…それに、師長にやってもらうってぇのもなぁ…」

「じゃあ…佐々木先生、お願いします!」

「わかりました。原田先生…」

しおりが面白そうに頷いた。

「おいおい…勘弁してくれよ!」

「私…院長に呼ばれているので、これで失礼します!後のことは、佐々木先生…宜しくお願いしますね!何かあれば直ぐに呼んで下さい!」

瑠唯は口を尖らせ、そう言って立ち上がる。

「はいはい、わかりました。」

しおりが微笑む横で大野がニヤリと、不敵に笑った。

「なんだ…院長にお目玉くらいに行くのか?どうせ山川も一緒なんだろう?せいぜい二人して叱られてこい!」

「…っ…先生!なんで知ってるんですか?」

「ハハハ…どうせそんなこったろうと思ったよ!」

「先生…カマ掛けたんですか?…酷い…」

瑠唯は真っ赤になって病室を飛び出した。



「彼女…なんか少し変わった?明るくなった?」

「いいや…あいつは本来あんなだよ。子供の頃は、無邪気で、明るくって、コロコロ笑ってた。ガキのくせして、人の事ばっかり心配しやがって…優しくて…あいつのお袋さんにそっくりな顔してやがる…」

「ふ〜ん…そんなちっちゃい頃から知ってるんだ…」

「そりゃそうさ…恩師の…大河原教授の一人娘だからな。あいつが未だピーピー泣いてた頃から知ってるよ。」

「そっかー大河原教授のお嬢さんだもんね。でも…教授の奥さんの事もよく知ってるのね。」

「あったり前だろ…恩師の奥さんだぜ!しょっちゅう、飯も食わしてもらってたからなぁ…なんだよ!やきもちか?」

「そんなんじゃありません!」

しおりは大野の腕を軽くつねる。

「いってーなぁ…術後二十四時間の病人だぜ!もうちょっと優しく扱えよ!」

「これ以上優しくなんか出来ないわよ!」

「それにしても、あいつ…料理の腕は、お袋さんから受け継がなかったらしい…あいつのつくるもんは、野良犬も食わん…」

そんな話しをしながら、大野がすうっと目を閉じる。
それに気付いたしおりが

「眠る?」と聞く。

「ああ…少し疲れた…お前はいいからもう帰れ。」

「ううん…もう少しいる…」

そう言ってしおりは大野の肩にそっと頭を預けた。







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