その笑顔を守るために
「お疲れ様でした。」

瑠唯が大野の背中に声をかけた。
振り向いた大野が瑠唯に歩み寄り…頭にポンっと手を置く。そしてそのまま、髪をクシャクシャに掻き回した。

「な、何するんですか?止めて下さいよー。そうじゃなくったってネコっ毛で絡まっちゃうのに!」

その抗議に覆いかぶせるように言い放つ。

「よくやった、原田!お前はもう一人前だ!」

一瞬の沈黙の後…瑠唯の目から熱いものが溢れ出した。
大野が瑠唯を見つめる目は、これまでで一番優しかった。

「大野先生!何、原田先生泣かしてんですか?」

後からやってきた三ツ矢が慌てて瑠唯に駆け寄る。

「そんなんじゃねえよ!」

瑠唯も泣き笑いしている。

「三ツ矢くんごめん…ちょっと緊張が解けて…恥ずかしい…」

瑠唯は拳で目元をグイっと拭いた。

「そうゆう訳だ、三ツ矢!お前研修医にしては、なかなかいい腕してるな。でも、まだまだだ!これから俺がとことんしごいてやるから、泣かずについてこいよ!」

「ほんとっすか?宜しくお願いします!」

「三ツ矢くん、よかったね!でも…覚悟した方がいいよ!マジ、スパルタだから…」

弾けるように瑠唯が笑った。

それを見た三ツ矢の顔がパっと赤くなった。

「が、頑張ります!」

「なんだよお前、原田に惚れてんのか?だったら山川と対決だな。」

「ち、違います!そんなんじゃありませんよ!ただ、こんな風に笑った原田先生…初めて見たから…」

そう言って下を向く。最後の言葉は殆ど聞き取れない。

「昔は…いっつもそんな風に笑ってたよ…」

「先生…」

「瑠唯…帰るか?送っていくぞ!」

「いえ…寮に戻って少し休みます。流石にちょっと…」

「そうだよなぁ…俺もこのまま運転っつーのもちょっとな…どうだ三ツ矢!仮眠室で添い寝でもするか?」

そう言って大野は三ツ矢の首に腕を回すとそのまま歩き出した。

「え?あっ…ちょっと、大野先生!勘弁して下さいよ!」

そんな三ツ矢の声が遠のいて行く。この時二人の後姿を見送りながら、瑠唯はある決心をした。


瑠唯が自室のベットでうつらうつらしていると、枕元に置いた携帯が振動する。

「はい、原田!」

「あっ、ごめん…寝てた?」

「山川先生…いえ…あっ…ちょっと、横になってました。でも…平気です。」

「もし大丈夫なら…出て来ないか?駐車場にいる。」

「あっ…はい、直ぐ行きます。」

「急がなくていいよ。」

何時もの山川らしい、穏やかな声だった。


「お待たしました。」

瑠唯が車を覗き込むと山川がフワっと微笑んだ。

「乗って…」

瑠唯が乗り込むと山川が話し出す。

「大変だったみたいだね。佐々木先生に聞いたよ。」

「佐々木先生…未だいらっしゃいました?」

「うん。君から連絡がないから、気になって…新生児室に行ってみたら佐々木先生がいて…事情は聞いたよ。」

「あ…はい、赤ちゃんの方は何とか落ち着いたんですが…その後交通事故の緊急搬送があって…」

「うん…疲れてる?」

「いえ…一眠りしましたから…それ程でも…」

「じゃあ…君さえよければ、お正月休みの続きをしないか?」

「ええ…是非!」

「よし!行こう!」

車が静かに走り出した。






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