不遇な財閥御曹司は、政略妻に一途な愛を捧げたい。



「……本当に、本当にすまなかった!」


 土下座する勢いで頭を下げたお義父様は、あれからの顛末を教えてくれた。

 実の息子で、嫡男だった彼は警察に捕まったらしい。だけどあの後、ちゃんと話し合ったそうだ。今まで言えなかったことも、不満も全て。取り憑いていたものが剥がれたらしく、後日手紙が永眞さん経由で渡されたのはつい最近のこと。


「俺は、自分の欲を優先するあまり皆を傷つけた。その結果、藍南さんに辛い目に遭わせてしまった。あいつがああなったのも全て私の責任だ」


 何度も何度も謝った数日後。義父は社長職を降りた。これからは彼ともう一度やり直すらしい。


 そうして、空いた社長職の穴は永眞さんが務めることになった。反対の声が多数あって大変だったが元々、社長業務もしていたこともあり引き継ぎはすぐに終わったらしい。


「藍南ちゃん、ネクタイどっちが良いかな。俺は、藍南ちゃんがくれたこっちにしたいんだけど」

「えー……私は、こっちが良いと思う」


 今日は、永眞さんの社長就任パーティーだ。私もそのパーティーに参加することが決まっていて今は衣装を整えているところだ。


「そっか、じゃあこっちにします」

「私、お手洗いに行ってくるね」


 私が立ち上がり、出て行こうとすると永眞さんも立ち上がって後をついてくる。


「永眞さん、お手洗いに行くだけですよ。大丈夫です」 

「心配なんだよ」


 あの日以来、まるでくっつき虫のようにずっとくっついている。めちゃくちゃ過保護になった。



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