イケメン御曹司は恋に不慣れ
やだ、息が顔にかかって気持ち悪い…嫌悪感が溢れてくると同時に嫌な出来事を思い出して身体が震えだす。
震えだした身体では強く掴まれた手はもう振りほどけない。泣きそうになると声まで震え小さくなっていく。
「や、やめて…くだ…さ…」
そんな状況の中、不意に拘束されていた手が解放されたと思った時、目の前に大きな背中が見えた。
ナンパ男の腕を掴み「放せ」と一言だけ発せられた声。
私を隠すように前に立つ人の背中を見て、恐怖心が一転して安心感に変わった。
周りには多くの人がいるにも関わらず、みな傍観しているこの状況で助けてくれる人がいたことに、先ほどとは違う戸惑いと安堵の気持ちが湧いた。
たった一言だけど聞こえた声は低く、耳に心地よいトーンで、思わず聞き惚れてしまいそうな、不思議な感覚があった。
掴まれた腕が痛かったのかナンパ男は「くっ…」と呻き声を上げ、顔を歪めると腕を振り解き逃げていった。
ナンパ男性がこの場から立ち去りホッとしたのもつかの間、今度は助けてくれた男性が急に振り返り声を発した。