追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。

44.悪役令嬢の葛藤。

**

 とてもお似合いの2人を見て、愛されたい、と願ってしまった。
 だけど、誰からも愛されない。
 あの子と自分の違いはなんなのだろう、とひとりぼっちで膝を抱えて泣いているコスモスピンクの髪の女の子。
 孤独と嫉妬は人を狂わせる。
 "泣かないで"と、手を伸ばしたいのに、画面の向こう側には私の声は届かない。

『助けてあげましょうか?』

 彼女の元に影が落ち、

『憎いでしょう、全てが』

 悪魔が耳元でそう囁く。
 悪魔に手を伸ばす彼女にダメと声を上げたところで、

「リティカ、それ以上干渉してはダメ。夢は所詮夢でしかないのよ」

 と聞き覚えのある声に制止され、私の意識は強制的に弾かれた。

**

「……お、母……さま?」

 私はゆっくり目を開ける。
 何度も瞬きを繰り返し、ここが自分の部屋である事を知る。
 どうやら、夢を見ていたらしい。

「きゅーゆ?」

「……だい、じょうぶ」

 私は頬を伝う涙を拭う。
 アレは、ゲームの中のリティカ・メルティーの記憶。
 リティカの罪。
 それは、助けを求める相手を間違えたこと。

「私は、あんな風にはならない」

 悪役にされる、なんてごめんだわ。私は自分の意思で悪役令嬢になるの。

「絶対、捕まえて見せるわ。悪役は一人で十分だもの」

 悪い情報は悪い人間に集まる。
 私が悪役令嬢として振る舞い続ければ。
 ロア様とライラちゃんの仲が上手くいき、私に隙ができたと思わせられれば。
 それは、きっと私の前に現れる。

『助けてあげましょう』

 なんて、人の良い顔をして。
 王子ルートのバッドエンドで語られた情報。それこそが、この国の危機を回避するための鍵。
 前世で王子ルートのバッドエンドを見た私はその犯人を知っている。

「夢は、夢でしかない……か」

「きゅきゅ?」

「んーん、ただ、夢でもいいから会わせてあげたいなって思っただけ」

 私は自分の髪をそっと掬って指に絡める。歳を重ねるごとに肖像画のお母様に似てくる容姿とかけ離れていく内面と魔法の才能。
 当たり前だけど、私はお母様ではない。

「そろそろ、終わらせないとね」

 私は不思議そうに私を見上げてくるスイを指先でそっと撫で、決行日を決めた。

「きゅー」

「ふふ、そんなに心配しないで。でもありがとう」

 心配そうに控えめに鳴いたスイに私は礼を述べたところで、

「きゅきゅ!!」

 スイが突然光って身体から何かを取り出した。

「これ、は? 私に?」

 スイがどこかから何かを勝手に持ってくる事は珍しい事ではなかったが、これはどうやらスイが勝手に持ってきたモノではなくて、スイに預けられたものらしい。
 それは小さなガラスの瓶に詰められた茶葉だった。
 私にお茶を贈ってくれる人なんて2人しかいない。そして、瓶に巻かれたリボンの色で送り主がロア様だと知る。
 リボンを解いて蓋を開ける。
 ふわりと桜の香りが鼻腔をくすぐった。

「……ロア……様」

 名前を呼べば無性にその顔が見たくなり、私はぎゅっと瓶を抱きしめる。
 この感情に名前をつけてはいけない。この気持ちは絶対に叶わない。叶えてはいけない。
 夢と現実が重なる。
 嫉妬は判断を狂わせる。
 私はきっと弱いから、自分がそうならない自信がない。

「……私、ヒトのモノには興味ないの」

 自分に言い聞かせるように私は深く呼吸をし。

「ロア様は大好きだけど、それは単純に推しだから。親愛以上はない。愛してなんかいない」

 深く、深く目を閉じる。
 大丈夫、大丈夫。と。
 大丈夫、のおまじないをしっかりかけて。

「私は、悪役令嬢リティカ・メルティー。決して嫉妬心なんて安い感情に振り回されたりしない」

 さぁ、物語を支配しましょうか。と自分に言い聞かせ、自分の目的を確認しながら目を開ける。
 何度も繰り返したその習慣のおかげで、リボンを見ても胸が痛むことはなかった。

「せっかくのご好意だから、お茶会で使おうかな」

 月明かりの下で自分のために一杯だけお茶を淹れて飲む。
 その夜見た夢の内容は忘れてしまったが、とても穏やかで優しくて温かな気持ちになるモノで、目が覚めた時には嫌な気持ちは全て消えていた。
< 107 / 191 >

この作品をシェア

pagetop