追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
 メアリー様が用意してくださったお茶は、お湯を注ぐと透明なポットの中でとても可愛らしい花を咲かせた。
 お茶自体は透明なのだが、甘い花の香りが広がる。

「わぁーすごく素敵っ! まるで魔法みたいです」

「ふふ、喜んでもらえてよかったわ」

 お菓子も用意したのよと私の好物であるアップルパイをはじめ、いろんなお菓子をひと口サイズにしたもの用意してくださっていた。
 さすが国民が憧れるメアリー様。女の子の心理をよくわかっていらっしゃる。

「最近はどう? 何か困っている事は無い?」
 
「みんなよくしてくださるので、大きく困っている事はないのですけれど」

 本当はたくさんある。例えば侯爵夫人からの私に対する理不尽な教育(嫌がらせのような暴力)とか。
 だけど、それの解決をメアリー様(王妃殿下)に任せてはつまらない。この程度の些事、悪役令嬢たる私が悪役らしくやり返すさねばと現在計画を練っているところだ。だから、この件に関してもしメアリー様が何かつかんでいるのだとしても、私はこの場で漏らすつもりはない。

「強いて言えば、お兄様との関係でしょうか」

 淹れていただいたお茶を一口飲んで、私は静かに別件の悩み事を口にする。

「まぁ、セザールとの?」

「私は仲良くしたいと思っているのですけれど、でも私は今までの行いのせいでお兄様にあまり良い印象を持たれていないので」

 これに関しては完全に自業自得だ。魔法省に入ってからは尚更、お兄様から家でも魔法省でも睨みつけるような視線を寄越されるようになった。
 魔術師見習いと言う共通の話題を持ったものの今の私では当然お兄様の足元に及ばず、きっと目障りでしかないのだろう。

「うーん、そうね。セザールは少し言葉が足らないところがあるから」

 私の話を聞いたメアリー様は見惚れる程美しい動作で優雅にお茶を飲み微笑むと、

「でも、私の目から見ればセザールは決してリティカのことを嫌ってなどいないと思いますよ」

 ゆっくりと言葉を選んで、私に話しかける。

「……そう、でしょうか?」

「リティカ、他者(ヒト)の感情は自分の基準で推し量れるものでは無いのよ。もしも本当にあの子が誰かを嫌うなら、自身の視界に入れることすらしないでしょうね」

 そう言われて、お兄様の行動を振り返る。確かに睨みつけるような視線を寄越すようになったけれど、それ以前は話しかけてくる事すらなかった。
 そこにあったのは、諦められたようなどうしようもない"無関心"。
 私の表情を見て微笑んだメアリー様は、

「悩み多きリティカに、私からアドバイス」

 そう言って透明なポットに何か透明の液体を垂らす。
 すると一瞬にして中に入っていたお茶がピンク色に染まり、今度はフルーティな香りに変わる。

「わぁー素敵」

 目を輝かせる私を満足気に見たメアリー様は、

「信頼は自分のこれからで積み上げていくしかないとして、変革を起こすきっかけっていうのは意外と身近な所に転がっているものよ。こんな風にね」

 とアドバイスをくれる。

「レモン水数滴でもヒトを感動させられるのだから、行動力のあるリティカならきっとセザールとの関係を改善できると思うわ」

 その言葉を受け取って私は改めてお兄様との関係改善のきっかけを探してみる事に決めた。
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