追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「ふふっ、お父様とお茶が飲めるだなんて、とっても久しぶりですね」

 思い立ってから急いで用意させたはずなのにテラスに用意された品は、全部私が喜ぶようなもので埋め尽くされていた。
 さすが、公爵家の使用人達。今まで散々リティカのわがままに耐えてきただけはあると申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、後で使用人たちにはこっそりお礼を言おうと決める。

「リティー。少しやつれたんじゃないのかい? 好きなだけ食べなさい」

「ありがとうございます、お父様」

 私は王妃教育で培ったマナーを復習するようにメアリー様のきれいな所作を思い出しながら、ゆっくり紅茶を口にする。

「……。」

「どうされました、お父様?」

 どこか淋しげな表情と目で訴えてくるお父様に、私は首をかしげてそう尋ねる。

「いや、もうパパとは呼ばないのかな、と」
 
 若干不満げにそんなことを言うお父様。
 これは普段からパパと呼べってことだろうか?
 自分の精神年齢とか公爵令嬢としてのプライドとか悪役令嬢らしさとか諸々の事情を心の中で天秤にかけ、屋敷内なら可としようと私はお父様のおねだりを受け入れることにした。

「パパ、いつもリティーのお願い聞いてくれてありがとう! すっごく嬉しい」

 子どもっぽさを目一杯意識しつつ、私は手を組んで頬にあて、コテンと小首をかしげて可愛らしいポーズをとる。
 内心では恥ずかしさのあまり悶絶しそうだ。
 だが、お父様におねだりする以上はこれぐらいのサービスが必要! と自分に言い聞かせて、私は羞恥心を捨てる。

「はは、可愛いリティーの頼みなら、パパは何でも聞いてあげるぞ」

 おっ! おっ!? 効果はテキメンだ!! 私は内心でガッツポーズを決めつつ、

「リティー、パパにおねだりしたいことがあるの」

 可愛らしさを意識しながら、私は本題を切り出す。

「何でも言ってごらん? 体調も良くなったようだし、快気祝いにドレスでも宝石でも買ってあげるよ。何なら、リティーがお気に入りだって言ってたショップ事買おうか」

 うん、本当にやめてください。
 淑女教育で培った鉄壁の笑顔を貼り付けたまま私は内心ではスンと冷めた表情をしつつ固まる。
 ちょっと前までこのやりとりに一切疑問を抱かなかったのかと思うと、穴があったら入りたいレベルで恥ずかしい。
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