追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
******
母子共に元気であることと、生まれたのは双子の女の子だという知らせを私が受け取ったのは、冷たく澄んだ空気が王都を包んだ朝のことだった。
『私、里帰りしないから』
と私が何かを仕掛けるより早くそう宣言したエリィ様は大きなトラブルもなく穏やかに王都で過ごされた。
エリィ様が落ち着くまではとお見舞いを躊躇っていた私を迎えに来てくれた師匠に連れられて、師匠の屋敷に足を踏み入れる。
「リティー様、いらっしゃいませ」
いつもと変わらないふわりとしたエリィ様の幸せそうな笑顔。
「エリィ様、ご出産おめでとうございます!」
駆け寄った私が見たのは、エリィ様譲りの柔らかな栗毛色をした髪をしてスヤスヤと眠っている女の子と師匠譲りの灰色の目をぱっちりと開いている女の子。
「か、かわいっ……ふわぁぁぁー可愛いしか出てこないっ」
あまりの可愛いらしさに語彙力が消失した私に、
「リティー様、抱っこしてみます?」
とエリィ様が優しく尋ねる。
「え!? だ、えーー? 触っても大丈夫なんですか?」
こんな小さくて壊れそうな生き物を? と躊躇う私をベッドに座らせて、
「はじめまして、リティー様。こっちがララでこの子はリズです」
エリィ様はそういって起きている方の女の子、リズをそっと抱えて私の手を取り一緒に抱かせてくれる。
「あったかい……それに、すごく可愛い」
ようこそ、クレティア王国へ。
私は無事に生まれて来てくれた命にそう囁く。
するとベッドで寝ていたララも目を覚まし、小さく泣き声を上げる。
「ほら、イーシス抱っこしてあげて」
「俺もまだ慣れてないんだけど」
「やらないと慣れない。はい、パパ頑張って」
にこにこにこにこと容赦ないエリィ様に促され師匠がぎこちなくララを抱きあげる。
「ふふ、よかったわね〜ララ。パパが抱っこしてくれて」
「本当、エリィお疲れ様。俺もこれからもっと頑張るよ」
見つめ合いながらそう言って幸せそうに笑い合う2人。
ああ、私はこの光景が見たかったんだわと胸が熱くなる。
「師匠! 師匠!! 写真っ!! 今撮らなくていつ撮るの!?」
私はリズをエリィ様の腕に返し、ずっと見たかった幸せな光景を映像記録水晶に閉じ込める。
「ふふ。スチル回収完了、です!」
その瞬間、私の頭の中であのエリィ様の棺の前で泣き崩れた師匠を切り取ったスチルが砕けた音がした。
「……どうした、リティカ?」
訝しげな師匠と目が合い私はふるふると首を振る。
「いえ、ただ」
教師ルートが完全に消えた。私は何故かはっきりそれを確信する。
「幸せだな、って思っただけです」
守りたい、と思った光景がある。
私の大好きで大切な人達。
その人達がこの国でハッピーエンドを迎えるためならば。
私は悪役令嬢らしく、物語を支配する。
「よーし、これからもスチル回収、頑張るぞー!」
私は新たな決意と共にそう叫び、魔法で写し出した幸せなスチルを抱きしめたのだった。
--第1章了
☆次回から新章学園編スタートです。
悪役令嬢リティカの物語はまだ続きます。
母子共に元気であることと、生まれたのは双子の女の子だという知らせを私が受け取ったのは、冷たく澄んだ空気が王都を包んだ朝のことだった。
『私、里帰りしないから』
と私が何かを仕掛けるより早くそう宣言したエリィ様は大きなトラブルもなく穏やかに王都で過ごされた。
エリィ様が落ち着くまではとお見舞いを躊躇っていた私を迎えに来てくれた師匠に連れられて、師匠の屋敷に足を踏み入れる。
「リティー様、いらっしゃいませ」
いつもと変わらないふわりとしたエリィ様の幸せそうな笑顔。
「エリィ様、ご出産おめでとうございます!」
駆け寄った私が見たのは、エリィ様譲りの柔らかな栗毛色をした髪をしてスヤスヤと眠っている女の子と師匠譲りの灰色の目をぱっちりと開いている女の子。
「か、かわいっ……ふわぁぁぁー可愛いしか出てこないっ」
あまりの可愛いらしさに語彙力が消失した私に、
「リティー様、抱っこしてみます?」
とエリィ様が優しく尋ねる。
「え!? だ、えーー? 触っても大丈夫なんですか?」
こんな小さくて壊れそうな生き物を? と躊躇う私をベッドに座らせて、
「はじめまして、リティー様。こっちがララでこの子はリズです」
エリィ様はそういって起きている方の女の子、リズをそっと抱えて私の手を取り一緒に抱かせてくれる。
「あったかい……それに、すごく可愛い」
ようこそ、クレティア王国へ。
私は無事に生まれて来てくれた命にそう囁く。
するとベッドで寝ていたララも目を覚まし、小さく泣き声を上げる。
「ほら、イーシス抱っこしてあげて」
「俺もまだ慣れてないんだけど」
「やらないと慣れない。はい、パパ頑張って」
にこにこにこにこと容赦ないエリィ様に促され師匠がぎこちなくララを抱きあげる。
「ふふ、よかったわね〜ララ。パパが抱っこしてくれて」
「本当、エリィお疲れ様。俺もこれからもっと頑張るよ」
見つめ合いながらそう言って幸せそうに笑い合う2人。
ああ、私はこの光景が見たかったんだわと胸が熱くなる。
「師匠! 師匠!! 写真っ!! 今撮らなくていつ撮るの!?」
私はリズをエリィ様の腕に返し、ずっと見たかった幸せな光景を映像記録水晶に閉じ込める。
「ふふ。スチル回収完了、です!」
その瞬間、私の頭の中であのエリィ様の棺の前で泣き崩れた師匠を切り取ったスチルが砕けた音がした。
「……どうした、リティカ?」
訝しげな師匠と目が合い私はふるふると首を振る。
「いえ、ただ」
教師ルートが完全に消えた。私は何故かはっきりそれを確信する。
「幸せだな、って思っただけです」
守りたい、と思った光景がある。
私の大好きで大切な人達。
その人達がこの国でハッピーエンドを迎えるためならば。
私は悪役令嬢らしく、物語を支配する。
「よーし、これからもスチル回収、頑張るぞー!」
私は新たな決意と共にそう叫び、魔法で写し出した幸せなスチルを抱きしめたのだった。
--第1章了
☆次回から新章学園編スタートです。
悪役令嬢リティカの物語はまだ続きます。