本部長は慇懃無礼
 京子は佐藤さんみ紹介された時に小池に下の名前で呼ばれただけでもドキッとしたのに、今は手を繋いで歩いている。


「あ、あの、本部長。ここまでしないとダメですか?」


「部屋に着くまで耐えてくれ」


「分かりました」


 小池の部屋に着くとすぐに京子は手を離した。


「山田さん、驚かせてごめん。佐藤さんは勘がいいから少しオーバーに演技しておきたくて……」


「私、分からないんです。初対面で悪態をついてきた本部長が一体どうして私に構うんですか。抱いた女性の中でも中の下の私がなんで今彼女のふりをしているのか理解できません」


 京子の気持ちが爆発した。自分でも止められないぐらい感情があふれ出して、涙が止まらなくなった。


 小池は泣いている京子をそっと抱きしめた。京子は離れようとしたが、小池は京子をしっかりと抱き寄せた。


「君のことが好きだから気にかけたくなる。君と近づきたいから非現実的なお願いをしてまで恋人になりたかった」


 京子は驚いて顔を上げた。


「じゃあなんで初めて会った日に私を侮辱したんですか?」


「それは君を遠ざけたかったからなんだ」


「どうして遠ざけたかったんですか?」


 小池は机の上にあった写真を京子に見せた。
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