ドSな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい~子づくりは溺愛のあとで~
 悩んでいるのは本当のようで、やや苦悩の表情がかいま見える。ガサガサで所々あかぎれしている手を見れば、酒造りをしている人の手だというのもわかる。

 しかし、だからってこの人の望み通りにできるはずもない。

「それは大変ですね。お気持ちは察しますが、私ではわらにもなれませんので」
「じゃあなんであんな噂があるんだよ? 火のないところになんたらって言うだろうが」
「ですから、あなたが言う噂は間違っているんです」

 堂々巡りなやり取りに辟易して笑顔が引きつってくる。

 どうやったら収拾がつくんだろう……。誰か来るかもしれないけれどそれを待つ気はないし、かと言ってうまく逃げ出せるかどうか。

 困っていた時、男性はすっと表情を冷たくし、舌打ちと共に「使えねぇ」とボソッと吐き出した。私から少し距離を取ったので、諦めて帰ってくれるかと思ったのもつかの間……。

「酒の味もわからねぇような女に期待した俺がバカだったわ。どうせこの店もたいしたことねーんだろ。あんたみたいな媚を売るしか脳がない女を雇ってるくらいだからな」

 嘲るような捨て台詞に、さすがにカチンときた。

 一方的に変な誤解をされ、罵られて、腹立たしくならないわけがない。しいじのことまで引き合いに出してくるのも許せない。

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