ドSな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい~子づくりは溺愛のあとで~
「あなたにそこまで頼ろうとは思っていませんよ」
「そう? 跡取りだって心配しなくてもよくなるのに。……あなたたち、子作りしてないんでしょう?」

 風柳さんは前屈みになって最後にそう囁いた。社員の噂を耳にしたのだろうが、はしたない内容に俺はわずかに表情を歪める。

「私とは愛し合わなくてもいいのよ。あの子の父親になってくれればそれで」

 小声で続ける彼女に、冷ややかな視線を送り続ける。

 父親にさえなれば、夫婦の本物の愛はいらない? それで幸せな家庭になるはずがないのに、本気でそんな関係を望んでいるのだろうか。

 肝心の楽くんの気持ちはどうなんだろうと、デスクのほうにちらりと目をやると、絵を描いていたはずの彼と視線がぶつかった。

 彼は表情を強張らせ、まるで助けを求めているかのごとく俺を見つめている。その瞬間、楽くんの考えは風柳さんとは違うのではないかという疑念がよぎった。

「……あなたは、本当に楽くんの気持ちを理解していますか?」
「え?」
「彼の本心は別のところにある気がします」

 風柳さんに目線を戻し、考えを改めるべきだと訴えかける。しかし、彼女の表情がみるみる硬くなっていく。

「なに言ってるの。あの子のことは私が一番わかってるわ」

 不服そうに吐き捨てる彼女は、頑として譲らなさそうだ。予想はしていたが、やはり無理やりにでも諦めてもらうしかない。

 ただ、再びお絵かき帳に目を落とす楽くんが、どことなく元気がなくなったように見えることだけが気がかりだった。


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