ドSな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい~子づくりは溺愛のあとで~

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 赤や橙、温かな色に木々が彩られる反面、昼間も冷え込むようになってきた十一月下旬。

 私、花菱(はなびし) 依都(いと)はいつものように着物を纏い、東京・恵比寿にある割烹料理店『しいじ』で接客している。小さなビルの二階に入居しているここは、知る人ぞ知るお店だ。

 入り口や内装は高級料亭のような和モダンな雰囲気だが敷居は高くなく、日頃から立ち寄ってもらえるような価格で本格的な日本料理とお酒を提供している。

 古語で春夏秋冬を意味する〝四時(しいじ)〟を店名にしているのも、三百六十五日いつでも来てほしいという願いが込められているらしい。

 和紙の照明でほんのり照らされる店内には木のカウンターがあり、その向こうで料理長の伯父が腕を振るう。席数は多くないがテーブル席と個室もあり、毎日予約が入るくらいには繁盛している。

 ランチタイム中の今も、市松模様の畳がおしゃれな個室に会席料理を予約していた五十代の夫婦がやってきた。男性のほうはこれまでに何回か来ているので顔見知りだ。

 さあ、ここからが私の腕の見せ所。

 畳に膝をついた私は、上品に紅葉が描かれた洒落柿色の着物の袖を少し捲って、ある一本の日本酒のラベルをふたりにお見せする。

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