ドSな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい~子づくりは溺愛のあとで~
「本日のおすすめはこちらです。ワイン酵母で仕込んだ、新しいタイプの純米吟醸酒です」

 日本酒のソムリエとも言われる唎酒師(ききさけし)の資格を持っている私は、笑顔で意気揚々と説明を始めた。

 お客様の好みと、その日の料理にぴったりなお酒を提案する。それがこの店の売りのひとつであり、私が一番生き生きとするひと時なのだ。

 奥様はやや意外そうに目を丸くして私を見つめる。

「ワイン酵母? それで日本酒ができるんですか」
「ええ、もちろん。日本酒に使う清酒酵母に比べるとリンゴ酸と酢酸が多く作られるので、風味もワインのように感じられる甘口のお酒に仕上がるんですよ」
「あら、そうなの。美味しそうね」

 興味を持ってくれる奥様に反し、恰幅のいいご主人のほうは訝しげに腕を組む。

「俺にはちょっと合わないかもしれないなぁ。日本酒らしさがないと物足りないんだ」
「そうおっしゃると思いまして」

 私はニッと口角を上げ、ラベルに書かれた〝無濾過〟の文字を手で指し示す。

「ワイン酵母使用の中でも無濾過生酒を選びました。甘口でもお酒本来の旨味とコクがあるんです。しっかりした酸味とのバランスもいいのでキレがありますし、本日の肉料理ともよく合いますよ」

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