ドSな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい~子づくりは溺愛のあとで~

 学生時代のままの無骨な自分の部屋でひと晩過ごした俺は、翌日さっそく花菱さんのもとへ出向いた。

 稲刈りを終えてどことなく寂しげな田んぼから、少し歩いたところにある昔ながらの民家が彼の家だ。突然現れた俺を見て、花菱さんはとても驚いていたものの快く迎えてくれた。

 こんがりと日焼けした肌に、ゴマのような顎髭を生やした優しげな顔は以前と変わっていない。若干身体が小さくなった気がするが、軽快に動く姿から健康そうなのは見て取れた。

 彼の妻はすでに他界しており、ひとり暮らしをしている。元気とはいえ七十代なので少々心配にもなるが、一緒に米作りをしている年下の仲間が毎日のように顔を出すらしい。

 居間に通され、小さなこたつのそばに座らせてもらう。慣れた手つきで茶を淹れた花菱さんは、湯呑をこちらに差し出して明るく話し出す。

「御鏡酒造の活躍はすげーなぁ。そんな大手の社長さんが、よく自ら会いに来るもんだ」
「花菱さんを口説こうと思いまして」
「こんなジジイじゃなく若い子にせい!」

 歯を見せておかしそうに笑った彼は、すぐに落ち着いた表情になり、「なんてな。新種の酒米のことだろ?」と緩やかに口角を上げた。

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