ドSな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい~子づくりは溺愛のあとで~
 ふらっと入ったのはしいじ……ではなく、その下にある酒屋のヒモト。まだ営業中だがお客様はいないので、店番をしている親友、雫に愚痴をこぼしていた。

 セミロングの明るい茶髪をルーズに纏め、今日もばっちりギャルメイクをしている雫。しっかり引いたアイラインと、オリーブカラーのカラコンのおかげで相変わらず目力が強い。

 そんな彼女は〝ヒモト〟と筆でばーんと書かれたデザインのエプロンをつけた姿で、レジカウンター内の椅子に座ってふむふむと頷いている。いつ見ても、この渋いエプロンはギャルな彼女に似合わない。

「それで帰ってきちゃったのか〜もったいない。ちゃんと御鏡さんの口から聞いたほうがよくね?」
「そうなんだけど、心がこう……なんていうか、聞ける状態じゃなくて」

 さっきからずっと胸の中がざわざわして落ち着かないのだ。これはたぶん、御鏡さんだけが原因ではない。

「母親のことでも動揺してるのよ。どうでもいいと思ってたのに、がんだとか生存率だとか聞くと、やっぱり衝撃的だった」
「んー……それだけ親って大きな存在なんだろうね。よくも悪くも」

 雫の言葉に共感して、小さく頷いた。彼女も私の境遇は知っているので包み隠さず話せる。

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