Crazy for you

帰りながら、孝ちゃんのことを考える。

なんで田崎くんは、あんなに自信たっぷりに孝ちゃんに聞いたらいいっていったんだろう。
私たちのこと知らないはずなのに。

好きかどうか、いつかは直面する問題だけど、孝ちゃんの彼女じゃなくなるかもと思うと怖くて聞けなかった。
でもこんな不安を抱えたままじゃいつか暴走するかもしれない。
それなら、どういう結果であれ、早めに聞いた方がいいのかな。

そんなことを考えながら家に戻ると、家の前に人が立っていた。

「え、孝ちゃん……?」
人影に近づくと、それはさっき駅で見た孝ちゃんだった。
孝ちゃんは私に気づくと、優しいいつもの笑みを浮かべた。
「香帆、突然ごめん」
「いいけど、どうしたの?」
孝ちゃんがアポなしで来るなんて初めての経験でびっくりしたと同時に会いたくなったのかなと思うと少し嬉しくなる。
「とりあえず香帆の部屋にいってもいい?」
「もちろん」
うなずいてから今日部屋綺麗だっけと一抹の不安。

今更心配になっても仕方がないので、綺麗にしていることを祈りつつ家のドアを開けた。

「ただいまー」
「お邪魔します」
娘の声とは違う声が聞こえて気になったのか、ママがリビングのドアから顔を出して目を丸くした。
「あれ、孝介くんじゃない。久しぶりねー」
「ご無沙汰してます。少しお邪魔してもいいですか? すぐ帰るんで」
「もちろんいいわよー。なんなら晩御飯も食べていってもいいのよ」
「ぜひお願いしたいんですけど、家でたぶん母が僕の分作ってるのでまた今度お願いします」
「約束よー」
孝ちゃんが大好きなママはにこにこ笑いながら嬉しそうだ。
「ちょっと部屋で話してくるね」
「お茶とかは?」
「あ、大丈夫です。お構いなく」
私が答える前にお茶の差し入れを断った孝ちゃんに珍しいなと思う。
孝ちゃんは基本的に厚意は受けるタイプだし、私の返事を待たずにいうことなんて今まで無かった。
……自分に聞かれたと思ったのかも。
不思議に思いながらもそうやって自分を納得させた。
二階にあがって、自分の部屋のドアを開ける。

部屋の中は、合格点くらいには綺麗だったのでほっとする。
これなら孝ちゃんが入っても大丈夫だ。

私に続けて孝ちゃんも中に入ったので、ドアを閉めた。
すると、孝ちゃんの手が伸びてきて、カチャリと部屋の鍵を締められた。

ーーえ?

そして次の瞬間。
私は孝ちゃんに、抱きしめられていた。

ーーーー!?

思考が追いつかずパニックになる。
初めて感じる孝ちゃんの温もりは、想像以上に破壊力をもっていて。
心臓が早鐘をうって、身体が硬直した。

どういうこと?
え?今どういう状況?

頭の中ではたくさんのクエスチョンが舞っていて、私は何も言葉が出なかった。
孝ちゃんの顔をみたいけど、孝ちゃんが私の頭を自分の胸に押付けているので見ることも出来ない。

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