Crazy for you


「これ」
田崎くんの机に、クッキーのお菓子をおく。
腕組みをして寝ていた田崎くんは欠伸をしながら顔を上げる。
「はよ。なにこれ」
「昨日のお礼。あのあと、ちゃんと話せた」
「信じてよかっただろ?」
クッキーのお菓子をすでに開けて一つつまみながら、田崎くんは私を見ずにそう言う。
「……うん。でもなんで、田崎くんはわかったの?」

田崎くんは、私と孝ちゃんが一緒にいるところをみたところなんてそんなに多くないはずなのに。

「七瀬さんって何回か試合見に来てただろ?」
「う、うん」
「その時七瀬さんのことみた先輩とか同級生とかが可愛いって騒いでたら、田邊先輩が『手出したら殺すよ』っていってた」
「え?」
「それに田邊先輩って、近寄ってくる女の人にはクールで塩対応だけど、七瀬さんと話してる時は表情柔らかいし大事にしてるって感じだったから」

知らなかった…。
孝ちゃんていつも人当たりいいし、笑顔で接してるから。

「むしろ気づいてなかったのかって感じだけど」
「気づかないよ、そんなの…」
いつもドキドキしてたし、孝ちゃんの周りなんて気にも止めてなかった。

「おっはよー、香帆」
「絵里、おはよ」
教室に入ってきた絵里に声をかけられて、挨拶を返すと、「田崎もおはよう」と絵里が声をかける。
「おはよ」
田崎くんはぶっきらぼうにそういって、クッキーをまたひとつ食べる。
「なんの話してたのー?」
「あ…」
そういえば結局、絵里には孝ちゃんと付き合ったことを伝えてなかった。
「絵里、あのさ、いってなかったんだけど」
「え?なに?」
「実は田邊先輩と付き合ってて…」
「あ、そうなの? おめでとう」
絵里は特に驚いた様子もなく、あっさりとそういった。
「え、なんでみんなそんな驚かないの?」
田崎くんも絵里も驚くことなく受け入れるのでこっちがそれに拍子抜けする。
孝ちゃんは学校ではわりと有名人だったし、たくさんの女の子が狙ってたはずなのに。
「そりゃあ、ね」
絵里が田崎くんと目配せしあってわかったように笑いあう。

え、なにその二人の分かりあってる感じ。

「香帆、ほんとに気づいてないの?」
「なにを?」
「前に告白されたことないって言ってたでしょ?」
「うん」
「それさ、なんでかっていうと、田邊先輩がブロックしてるからだよ」
「え?」
「香帆に近づく男がいたら、田邊先輩どこかから現れて牽制するんだよ。番犬みたいに」
絵里の言葉に私は開いた口が塞がらなかった。

うそ?
そんなこと一回もなかった気がするんだけど…。

でも田崎くんも何も言わずに苦笑してるから、もしかして本当に私が気付いてなかっただけ?

「田邊先輩に勝てるわけないって思ってみんな諦めてくの。逆に言えば、田邊先輩を超えて香帆を狙う人がいなかったともいえるけど」
「ぜんぜん気づかなかった……」
呆然と呟いた私に、絵里がにっこり笑った。
「香帆のこと大好きなんだなっていつも思ってたよ」
それを言われることは恥ずかしくもあり照れくさかった。

なんだ。本当に私が考えすぎてただけなんだ。
私が思っているより、孝ちゃんがずっとずっと私のことを大切にしてくれてたんだと思うと嬉しかった。


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