アンハッピー・ウエディング〜後編〜
新校舎が近づくにつれ、賑やかな人々の声が聞こえてきた。

新校舎の方は客が多いだろうな、とは思っていたけど。

予想以上だった。

「…すげー人…。めちゃくちゃ多いな」

「あぁ…」

閑散とした旧校舎とは、雲泥の差。

人口密度の差が半端じゃない。

旧校舎と来たら、「今日本当に文化祭か?」と疑いたくなるくらい、静まり返ってるからな。

普段の平日と何ら変わりないと言っても過言ではない。

見事に、新校舎の女子生徒達に客を全員吸われたようだな。

「見ろよ、悠理兄さん。めちゃくちゃ屋台並んでる」

新校舎の敷地内に足を踏み入れると、何処からともなく、屋台の食べ物の良い匂いが漂ってきた。

色んな種類がある。お祭りの夜みたいに、屋台が所狭しと。

あっちはクレープ、こっちはフルーツサンド、向こうはワッフルとチョコバナナ…。

寿々花さんが好きなりんご飴や、綿あめも売ってる。

女子生徒ばっかりなせいか、スイーツ系の屋台の方が多い気がするが。

中には、たこ焼きやお好み焼き、フライドポテトなどの、定番屋台メニューも売られていた。

屋台の周りでは、呼び子の生徒達が道行く人々に声をかけていた。

成程、こりゃ俺達のクラスのカレー屋が閑古鳥な訳だよ。

これだけ美味しそうな屋台が、よりどりみどりで並んでいるのに。

わざわざ新校舎から離れて、旧校舎まで歩いてカレー食べに来る物好きがいるかよ。

買う方だって、何処ぞの馬の骨とも知らない、むさ苦しい男子高校生の手作りカレーなんかより。

華やかで上品な女子高生達が売ってくれる、甘いスイーツの方が食べたいに決まってる。

その証拠に、どの屋台にもお客さんがズラッと列を為していた。

すげー人だかり。

もうこの時点で、最早俺達は負けたも同然。

そもそも、同じ土俵に上がってすらいないけどな。

女子生徒が作る屋台メニューの味が如何ほどのものか、試しに買って食べてみたい気もするが。

そんなことをしている暇はない。

目指すは勿論、寿々花さんのいるメイドカフェだ。

それ以外はどうでも良い。

「雛堂、行くぞ」

「やべー…。めっちゃ良い匂いする。甘くて華やか…」

「おい、行くぞって。置いていかれたいのか」

「ちょ、分かった分かった。行くって。そんな急かすなよ」

急かすわ。

こうしてる間にも、うちの寿々花さんがメイドカフェで、下衆なおっさんの視線に晒されているかと思うと…。

…台パンしたくなるな。台、ないけど。

それなのに。

「楽しみだなー。無月院の姉さんのメイド服姿。似合うだろうなーきっと。ナンパとかされてんじゃね?」

「…」

「『そこの可愛いお嬢さん、良かったらこの後一緒に…ぐへへ』みたいな。いかにもありそう、」

「…」

…そうか。

最高にムカついたので、とりあえず腹いせに一発…雛堂をぶん殴るとするか。

「じょ、冗談だって。無言で拳を握り締めんのやめてくれ」

「雛堂…。世の中には言って良いことと悪いことってものがあるんだぞ。それを教えてやろうか?」

「わ、分かった分かった。悠理兄さん、目が。目がめっちゃ怖いんだけど?」

そうか。…それは気の所為だな。
< 188 / 645 >

この作品をシェア

pagetop