アンハッピー・ウエディング〜後編〜
さぁ、そんなつまらないこと言ってる場合じゃない。

俺は急いで、仮設キッチンに戻った。

そこは、控えめに言って修羅場と化していた。

「2番テーブルの注文は!?」

「さっき作った!そこのお盆に乗せてるだろ」

「あれ?ちょっと待て。2番テーブルはこだわりカレーじゃなくて、オムカレーじゃなかったか?」

「マジかよ!まだ作ってないのに」

「ちょっと待て。それなら、今4番テーブル用のオムカレーを作ってるから、これを2番テーブルに…」

「糠漬けの在庫が足りねぇ!」

「おい、誰だよこれ用意したの。5番テーブルのトッピングは唐揚げじゃなくて、トンカツだって言ったじゃん!」

クラスメイトの、悲鳴に近い怒号が飛び交っている。

ここは…ここは戦場か…?

俺は、戦場に迷い込んでしまったのだろうか。

目が回るほどの忙しさ、とはこのことを言うのだろう。

思わず、呆然と立ち尽くしてしまったが。

「…あっ!シェフが帰ってきた!」

てんてこ舞いしていたクラスメイトの一人が、厨房に立ち尽くす俺に気づいた。

あっ…どうも。

お疲れ様です。

そのクラスメイトの一言で、キッチンにいた仲間達が、一斉にこちらを見た。

まるで、救い主でも現れたかのような目で。

「よ、良かった!やっと戻ってきてくれた!」

「カレー作りが間に合わないんだ。今煮込んでるんだけど、新しいのを作り始めないと…」

「それより、糠漬け!糠漬けを切ってくれ!」

「ちょっと待て。オムレツを作ってもらうのが先だろ」

「さぁ、早く!急いで手伝ってくれ!」

ちょ、ちょっと待ってくれ。いっぺんに言わないでくれよ。

聖徳太子じゃないんだから。聞き取れないって。

と、とにかく。

俺もぼーっと突っ立っている暇はない。…すぐに動かなくては。

素早くエプロンを身に着けた俺は、すぐさま包丁を手に取った。
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