アンハッピー・ウエディング〜後編〜
そこからはもう、怒涛のように時間が過ぎていった。

何にも考えてる暇はなかった。次から次へとお客さんがやって来て、次から次へと注文が舞い込んできて。

キッチンの中は、カレーの熱気とてんてこ舞いするクラスメイトの熱気で、真夏みたいに暑かったけど。

暑いとか、疲れたとか、そんなことは言っていられなかった。

それどころじゃないんだよ。とにかく、目の前の注文を捌かなくては。

行列の出来るラーメン屋の店主って、毎日こんな思いしてんのかなぁ、ってちょっと思った。

…って、そんな余所事考えてる場合じゃないんだっての。

何でいきなり、突然こんな大繁盛してるんだ、という当然の疑問を後回しにして。

俺はひたすら、キッチンでカレーの材料を切り、煮込み、味付けし。

オムレツを作って、糠床から糠漬けを取り出して洗って、切って盛り付けて。

レンジでチンしたトッピングを皿に乗せて、それをクラスメイトに運んでもらった。

丁度お昼時になったのも相まって、お客さんの列は途切れることなく続いた。

人手が足りなくて、急遽非番のクラスメイトも呼んで、手伝ってもらった。

目の回るような忙しさに、全員がフルスロットルで動き回った。

慣れない俺達は、何度もミスを連発した。

オムカレーって言われたのにこだわりカレーを出しちゃったり。

付け合わせにサラダを頼まれたのに、間違えてスープを出しちゃったり。

うっかり糠漬けを出し忘れてたり、逆に、一人に二つも糠漬けの皿を出したり。

トッピングの間違いも、いくつやったか分からない。

長い行列を待たされた上に、注文を間違えられたお客さん達に、逆ギレされても全くおかしくなかっまが。

だが、お客さんとしてやって来るのは、新校舎の女子生徒ばかり。

ゆったりとした穏やかな性格の、女子生徒ばかりだったので。

俺達が注文を間違えても、「あらあらうふふふ」と微笑んで許してくれた。

これだけミス連発して、お客さんとのトラブルに発展しなかったのは。

ひとえに、このお客さん達のおおらかな性格のお陰である。

これが普通の学校の生徒だったら、間違いなく舌打ちの一つや二つはされていただろう。

この学校がお嬢様学校で良かった、と初めてしみじみと思った瞬間である。

しかし、捌いても捌いても、次々にやって来るお客さんの列が途切れることはなく。

しまいには。

「…!やべぇ、じゃがいもと玉ねぎが品切れだ」

ついでに、豚肉もさっきので全部。

じゃがいもも、玉ねぎも、肉もなくなってしまったからには。

これ以上、カレーは作れない。

ニンジンだけは残ってるけど、まさかニンジンカレーを出す訳にもいかず。

更に。

「オムレツ用の卵も、さっきので終わったよ」

冷蔵庫の中にストックしていた大量の卵も、先程のオムカレーで品切れ。

ついでに。

「糠漬けは?」

「きゅうりの糠漬けは終わった。大根なら残ってるけど…ほんのちょっとだよ」

糠漬けの在庫も、既に底を突きかけている。

…カレーもない、卵も糠漬けも在庫切れ。

すると、もうこれ以上の営業は無理だな。

教室の前には、まだまだお客さんが列を為しているが…。

非常に申し訳ないが、材料が尽きた以上、これ以上の営業は不可能。

「…さすがに、ここまでだな」

『HoShi壱番屋』は、午後の営業を待たずに、完売御礼で閉店することになった。

長年(?)のご愛顧、ありがとうございました。
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