アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…見たところ。

一週間で痩せ細って、旅行で疲れて倒れそう、ってことはないようだな。

良かった。電話で元気に過ごしていると言っていたのは、嘘じゃなかったらしい。

この人偏食家だからな。食べる物が合わないんじゃないかって、心配だった。

…無事に戻ってきてくれて、何より。

元気に帰ってくることが何よりのお土産、とよく言うけど。

これまでは、クサい言葉だと馬鹿にしていたものだが。

今になって、あの言葉は本当だなと思った。

こうして、寿々花さんの元気そうな顔が見られたことが。

何より価値のあるお土産をもらったような…そんな気がするよ。

「悠理君がむにむにしてくる…」

それは悪かったな。

言うべきこと、言いたいことは山程あるし。

聞きたいことも…同じくらいたくさんあったけど。

いざ本人を目の前にすると、色んな言葉が浮かんでは消え、言葉にならない。

ようやく、絞り出すようにして出た言葉は。

「…何だか、随分遅かったようだが」

という、つまらない愚痴だった。

「ほぇ?」

「もう少し早く帰ってくるのかと思った…」

「うん。日本に着いたのは午前中だったんだけど…」

え、マジ?

帰ってきてたの?午前中に?

「空港に着いたのに、今日は強風の影響で、滑走路がいっぱいだって」

え、マジ?

そんなことがあんの?

そうか。天気が良いからって安心してたけど。風の影響か。そういうことか。

そういやこの辺も、今日は風が強いなぁって思ってたよ。

洗濯物がよく乾くから良いや、くらいに思ってた。

許さんぞ風。吹くな。

「一時間くらい上空待機で、着陸してからも降りるまでに時間がかかったんだよー」

「…そうだったのか…」

「それから学校に帰って、解散して…。お家に帰ってくるまでに、ちょっと迷っちゃって」

は?

「…何で迷うんだよ?」

「え?だって久し振りに帰ってきたから。お家はこっちだったかなぁ、このお家だったかなぁって思って」

久し振りって。そんな自宅の場所を忘れるほど久し振りじゃねーだろ。

忘れてた。この人、アホの子なんだった。

…やっぱり、迎えに行けば良かった…。学校まで。

「玄関の扉を開けるまで、『本当にこの家で合ってたかな?』って不安だったんだよ」

「…そうか…」

「でも、その後悠理君の顔が見えたから、すぐに分かったよ。ここで合ってたんだーって」

それは良かった。

今度、家の表札の大きさを3倍くらいのものに付け替えておくよ。

ついでに、念の為に寿々花さんを迷子サービスに登録しようかな。

うっかり他所の家に帰るところだった。本当危なっかしい。

こんな危なっかしい人が、よく一週間もイタリアに行って、無事に帰ってこられたもんだよ。
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