アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…5分後。

「見て見てー。悠理君。ほらほら」

ドラキュラのマントを身に纏い、シルクハットまで被った寿々花さんは。

さながら、ドラキュラ城の主のようだった。

無駄に格好良くて、似合ってて悔しい。

男装コンテストの時も思ったけど、寿々花さん、やっぱり何着ても美人だな…。

寿々花さんなら、ドラキュラの衣装のみならず、赤ずきんの衣装だってよく似合っただろうに。

羨ましいよ。俺もそっちの衣装が良かった。

衣装交換しねぇ?と、心の底から提案したい。

しかし。

「おっと、悠理兄さん。衣装チェンジしたい、とか思ってんじゃねぇよな?」

ぎくっ。

妙に鋭いじゃないか…このミイラ男。

頭にぐるぐる包帯巻いてる癖に。

「どうよ、悠理兄さん。自分の仮装もなかなか捨てたもんじゃないだろ?」

「…」

全然似合ってねーよ自惚れるな、と言いたいところだったが。

意外と似合ってるから、反応に困る。

かくなる上は。

「乙無…。やっぱりあんたも一緒に抵抗、」

「はい?」

「…」

振り向くと、そこには魔女の衣装をバッチリと着こなした、乙無の姿があった。

ご丁寧にとんがり帽子を被り、小道具に竹箒まで持っている。

…めっちゃくちゃ似合ってるんだけど。俺、どんな反応すれば良いの?

「おっ、良いねぇ真珠兄さん。めっちゃ似合うじゃん!これぞ邪神の眷属!って感じ」

「ふふ、それは当然です。正真正銘、邪神の眷属ですから」

「誂(あつら)えたみたいにぴったりだねー」

「元より僕は、魔の力を宿す者…。魔女とは違いますが、通じるところはあるということでしょうね」

…なんかノリノリだし。

良いように、雛堂と寿々花さんにおだてられてやがる…。

駄目だ。乙無も女装被害者として、味方になってくれるかと思ったのに。

むしろ、一人躊躇っている俺が意気地なしみたいな流れになってる。

何でこういつも、俺に不利な状況を作られるんだ?

運命の女神、俺に半笑い。

ただ一つ分かるのは、やっぱり女装コンテストは乙無が出れば良かったんじゃないかということだ。

こんなしょうもない仮装の衣装まで用立てられるなら、やっぱり俺じゃなくて、雛堂か乙無が出れば良かったんだよ。

何の為に俺が、心の中でご先祖様に土下座してまで、セーラー服やメイド服姿を全校生徒の前で披露しなければならなかったのか。

納得行かねぇ。全く納得行かねぇよ。

それなのに、そんな俺の葛藤など当然の如く無視され。

「ほら、あとは悠理兄さんだけだぞ。赤ずきんの衣装、着てくれよ」

ぐぬぬ。

「厳正なるあみだくじの結果だぞ?まさか嫌だとは言わないよな?」

「あ、あんたって奴は…」

「こういうのは、恥ずかしがったら負けですよ」

乙無、ごもっとも。

その通りなんだけど。恥ずかしがったら余計恥ずかしくなるって、女装コンテストで嫌と言うほど学んだよ。

でも、俺のプライドが。最後の、男としての、いや人間としてのプライドが、

「大体、女装コンテストで二回も女装してんだから、今更躊躇うことなんで何もなくね?」

「うるそーぞ雛堂。誰のせいだと思ってんだよ…!?」

「悠理君、早く早くー」

「あんたもだよ。ちょっと黙っててくれないかな…!?」

何だって、俺がこんな目に。

…って、もう何度思ったか分からないよ。
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