アンハッピー・ウエディング〜後編〜
今朝の続きとばかりに、帰ってきた途端に監視が再開されてしまった。

俺が何をしていても、ちょこちょこと後ろをついてくる。

外に干していた洗濯物を、家の中に取り込む間も。

その洗濯物を、一枚ずつ畳んでいる間も。

今日の夕食にするつもりの、春巻きを作っている間も。

その春巻きを、油で揚げている間も。

付け合せのサラダを作っている間も、味噌汁を作っている間も。

出来上がった料理を更に盛り付け、テーブルに運んでいる間も。

何なら、食べている間もずーっと。

寿々花さんの視線は、真っ直ぐに俺を捉えて離さなかった。

じーっとこちらを見つめながら、時折クリップボードに何かをメモしていた。

…何書いてんの?あれ。

食後、皿を洗っている最中も、勿論監視の目が止まることはなかった。

家事が捗らないの何のって。

仕事中、誰に一挙手一投足をじーっと見つめられていると想像してみてくれ。

考えるだけで鬱陶しいだろ?

もしかして、俺の仕事ぶりをチェックしているとでも言うのか。

「さてはこいつ、手抜きをしているんじゃないか」と?

そりゃ、手を抜けるところは楽をさせてもらっている…自覚はあるよ。

弁当に冷凍食品は入れるし、春巻の皮だって市販のものだし。

だけど、これまではそれでも、何も言われなかったのに。

何なんだ。突然、俺の家事の手抜きぶりが気になり始めたのか?

訳が分からない。

ずっと無言で見てるから、それがまた不気味なんだよな。

文句つけたいなら文句つけてもらっても構わないから、理由を言ってくれよ。

改善出来ることは、出来るだけ改善するからさ。

…しかし。

どうやら寿々花さんは、俺の家事に文句をつけたい訳ではないらしく。

その日の家事を終えて、自分の部屋に戻ろうとしたら。

寿々花さんは、ストーカーの如く俺の後ろをついてきた。

…マジで?部屋にまでついてくんの?

これから、今日出たばかりの課題でもやろうかと思ったんだけど?

見られていると、勉強も全然捗らない。

「…あのさ、寿々花さん」

あまりにも居心地が悪くて、俺は振り返って寿々花さんに声をかけた。

「…?なぁに?」

「ここ、男の部屋なんだけど」

自覚、ちゃんとあるか?

当たり前のように、俺の部屋までついてしているが。

「?悠理君のお部屋だよ?」

分かっているなら宜しい。

「男の部屋に、不用意に入るもんじゃない」

「何で?」

「いや、何でって…」

あんたは女であって、俺が男だから…。

って理由じゃ駄目なのか?納得してもらえないのか。

「俺、これから宿題するんだけど」

「そうなんだ。何の宿題?」

「え?それは、えっと…英語」

「英語かー」

宿題、出たんだよ。問題集を2ページ分、解いてこいって。

あれをやろうと思ってたんだが…。

まさか、宿題中もずっと監視してくるつもりなのか?

「…ずっと見てるつもりなのか?」

「ふぇ?うん」

マジかよ。

家事を真面目にやっているか監視するだけ、に留まらず。

それどころか、宿題も真面目にやっているか監視するつもりなのか。

見られてなくても、真面目にやるっての。

むしろ、見られていた方が気が散るんだが?
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