アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…仕方ない。ここにいる寿々花さんは…カカシみたいなものだ。

寿々花さんはカカシ。寿々花さんはカカシ…と、自分に言い聞かせ。

努めて、背後の寿々花さんの存在を、意識の外に追いやって。

俺は問題集とノートを広げて、参考書と電子辞書を傍らに置き。

早速、宿題を始めた。

…の、だが。

いくらカカシだと思い込もうとしても、背中に強い視線を感じる。

とても集中出来ない。

「…」

「…じーっ…」

ちらっと背後を見ると、やっぱり寿々花さんがガン見してきてきた。

なぁ、マジで何なの?

何でここにいるの?何で俺をガン見してんの?

マジで意味が分からないんだけど。

「…なぁ、なぁ寿々花さん」

いよいよ我慢出来なくなって、俺はシャーペンを置いて振り向いた。

「さっきから、いや、今朝から一体何なんだ?どう…、」

「悠理君、そこ」

「は?」

寿々花さんは俺の質問には答えなかった。

代わりに。

「間違ってるよ」

「何が?あんたを奇天烈な行動を差し置いて、俺の何が間違ってるって言うんだよ?」

「問3の答え、そこの空欄はhaveじゃなくてhad」

あ、そうなんだ。それはごめん。

俺が間違ってたわ。

「それから問4も、finallyがfinalyになってる。Lが一つ足りないよ」

「あ、本当だ…」

うっかり、スペルミスを。

俺が下手くそな間違いをしてるのも、バッチリ見られていたという訳だ。

教えてくれてありがとう。

ほぼネイティブの寿々花さんにとっては、この程度の問題でミスってる俺は、失笑モノなんだろうな。

この馬鹿、英語も分からないのかと内心馬鹿にしているのか。

寿々花さんは、さらさらとクリップボードに何かを書いていた。

おい。何書いてるんだよ、それ。

「英語の宿題でスペルミスをしているアホ」とでも書いてるんじゃないだろうな。

「…えーっと…」

何で俺を監視してるんだ、と聞くつもりだったのだが。

普通に英語の宿題を教えてもらってしまって、これ以上何も聞けず。

結局、俺はくるりと寿々花さんに背中を向け。

課題を続行することにした。

あぁ、見られてると思うとやりづれぇ…。



…しかし、宿題を監視するどころではなかった。
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