アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「つまり、前向きに検討してる、と?」

「…今のところは…」

「…日本とヨーロッパで遠距離か…。遠いな…」

気軽に行き来出来る距離ではないのは、火を見るよりも明らか。

寿々花さんが修学旅行の為に、一週間イタリアに行っていただけでも、半ば魂が抜けてたのに…。

今度は、年単位で帰ってこなくなるんだろ?

帰ってくるのは多分、夏休みや春休みなどの長期休みだけで。

それ以外は、ずっと向こうで…離れ離れで…。

スマホも持ってない寿々花さんだから、メールや電話でのやり取りも覚束ない。

「何でそんなに落ち込むのか分かりませんね。死んでないなら良いじゃないですか。生きてさえいれば、いずれまた会えるんだから」

乙無は、呆れたようにそう言った。

あんたって奴は…相変わらず淡白な返事だ。

「たかが数年、会えないだけでしょう?それが何だって言うんですか」

「あんたには分からないかもしれないけどな…。俺みたいな普通の人間は、そのたかが数年が地獄なんだよ…」

「ふーん。人間って大変ですね。僕にはもう分かりませんけど」

そうかい。

で、一方の雛堂は。

「…難しいよな。引き留めたいのは山々だけど、無月院の姉さんの将来の為には、喜んで背中押してあげるべきなんだろうし」

あんたは俺の気持ち、分かってくれるようだな。

しかし。

「最悪、向こうで現地妻ならぬ、現地彼氏が出来たら目も当てられな、あっ」

…ふーん。

言って良いことと悪いことがあるって、子供の頃習わなかったようだな?

「…」

「ご、ごめん悠理兄さん!冗談だって、冗談!無言で椅子を振り上げようとすんのやめて!」

じゃあ、あんたも発言には気をつけることだな。

次は振り下ろすぞ。

…何でこんな気持ちになるのか、俺にも分からない。

寿々花さんの留学の話を聞かされたのが、去年の今頃だったなら。

きっと俺は、諸手を挙げて大喜びだったと思う。

渋る寿々花さんの背中を強引に押してでも、長期留学に送り出しただろうに。

今では、全く別のことを考えている。

…何でこんな気持ちになるのか、本当に分からない。
< 630 / 645 >

この作品をシェア

pagetop