一日限りの恋人のはずが予期せぬ愛にくるまれました

 物件の話をする間もなく帰り支度をさせられ、外に連れ出された。黒塗りの外車が止まっていた。
 後部座席に乗るように言われた。結果、運転手の後ろの席だった。
 ここって上座なのに。
 私は落ち着かない。
 小手鞠さんは気にすることなく隣に座り、秘書は助手席に乗り込んだ。
「本当に社長……なんですか」
「疑うならスマホで調べて」
 自分のスマホで小手鞠製薬会社社長を調べる。
 小手鞠さんと同じ顔の写真が出て来た。やり手のアルファで、先代社長の急病により今年33歳にして急遽社長に就任と書かれていた。
「偽サイトなのでは……」
「疑り深いな」
 小手鞠さんが呆れた。あなたの人徳でしょう、と森下さんがくすくすと笑った。
 私が二人の間で視線をさまよわせると、小手鞠さんは微笑した。
「こいつは高校の後輩でね。遠慮がない。もう少し社長扱いしてほしいものだ」
「仕事ではちゃんと社長扱いしてますよ」
 からかうように森下さんが応じた。
「とにかく、食事に行こう」
「食事って」
「もう終業時間を過ぎただろう? 仕事なんて終わりだ」
 唖然とした。
「でも、汗まみれですし、今日はこれで」
 いくらクーラーの効いた室内で仕事をしていても、それなりに汗をかく。
「問題ない」
 車は一軒のショップの前で止まった。
 車を降り、店の中に連れていかれる。
「どれでも好きな服を選んで」
 選べと言われても、と私は困惑する。
「お気になさらず。昨日の無礼のお詫びです」
 すかさず森下さんが言い添えた。
「社長、選んで差し上げて」
「女性の服はわからん」
 言って、彼は店員を呼んだ。
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