一日限りの恋人のはずが予期せぬ愛にくるまれました
「彼女に似合うものを」
「かしこまりました」
 店員はいくつかの服をみつくろい、私を試着室に押し込む。
「汗が気になるようでしたらどうぞ」
 森下さんが汗拭きシートを渡してくる。
「俺は一緒にシャワーを浴びるのでもいいが」
 小手鞠さんが言う。
 私は慌てて試着室のカーテンを閉めた。
 ドキドキして、汗拭きシートを見る。
 失礼のないように、という山橋さんの言葉が蘇る。
 とりあえず、汗拭きシートであちこちを拭く。
 渡された服を見る。着ないと怒られるだろうか。
 ワンピースをしぶしぶ着てみると、とても着心地が良かった。すごく似合っていて、いつもの自分と違って見えた。くすみのある薄い緑だった。ミルク多めの抹茶ミルクみたい。茶色の細いリボンのベルトがアクセントになっている。かわいいのに落ち着きがある。Aラインのせいかスタイルも良く見える。
「いかがでしょう」
 店員が声をかけてくる。
 私はカーテンを開けた。
「いいじゃないか」
 小手鞠さんは顔をほころばせた。
 私は一瞬、呆けた。あまりに無邪気な、いい笑顔だった。
「これでいい、あとは持って帰る。会計を」
「だめです」
 慌てて止める。
「社長のお詫びの気持ちです。社長、いきなり全部はダメですよ」
 小手鞠さんは口を尖らせ、じゃあこれを、と言った。
 自分で払います、と私は断った。
 5万円のワンピースだった。欲しくもない服の代金を払うのは嫌だが、買ってもらったらさらに高くつく気がして怖かった。
 だけど、彼は私の申し出を拒否して支払った。
 そのワンピースを着たまま、高級ホテル、ミリオンダイヤモンドの上層階にある高級なレストラン『シャン・ド・フルール』に連れていかれた。フランス語で花畑という意味らしい。
 レストランには森下さんは同行しなかった。
 小手鞠さんと二人になり、私は緊張した。
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