一日限りの恋人のはずが予期せぬ愛にくるまれました
「ご一緒させていただいていいですかぁ」
 あまりの図々しさに、私は唖然とした。
「礼儀知らずにもほどがある」
 小手鞠さんが睨むと、彼女はさすがに顔を凍らせた。
「蕾未ちゃん、勝手に行かないで」
 辻谷さんが現れた。
 私を見て驚く。私も驚いた。まさかここで会うとは。いや、いてもおかしくないのか。二人はつきあっているのだから。
「あなたの連れか。しっかり見張っておいてくれ」
「失礼しました」
 辻谷さんは謝罪し、ごねる鮫島さんを連れて行った。店員に、入口に近い席に案内されていた。
 小手鞠さんは目で合図して店員を呼び、何事か囁いた。
 店員は頷いて立ち去った。
 しばらくして戻って来た店員は「お料理は別室に用意してございます」と私たちを案内した。
 鮫島さんから離れるために個室にしてくれたのだろうか。先ほどの耳打ちがそれだったのか。
「……ありがとうございます」
 小手鞠さんはただ、にこっと笑った。先ほどの冷たさはかけらもなかった。
「あんなのと仕事とは、大変だな」
 席に着くなり、小手鞠さんが言った。
「彼女、人気あるんですよ。いつも人に囲まれていて。誕生日には花束を持ってくるお客様もいらっしゃいました」
 それを店内で活けるのは私がやらされたが。
「君は見たものをそのまま信じすぎるようだ」
 私は怪訝に思って小手鞠さんを見た。
「だが俺のことはなかなか信じてくれないな」
 穏やかに見つめられ、思わず私は目をそらす。胸がどきどきした。
 正直なところ、鮫島さんを切り捨てるような対応に、スカッとした気持ちがしていた。
 自分を優先してもらえて、小手鞠さんに愛されているような錯覚に陥ってしまう。
 会ったばかりなのに。
 運命の番だと思い込んでいるから優しいだけなのに。
 今日だけ。
 私は自分に言い訳する。
 今日だけ、夢を見てもいいよね?
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