一日限りの恋人のはずが予期せぬ愛にくるまれました
 これにもふりまわされた、と私は自省する。人間関係を悪くしたくなくて、以前は彼女がむくれると慌ててご機嫌をとっていた。
「いつから? 昨日、お店に来たときには他人みたいだったのに」
 語尾が伸びなくなった。本気で怒っている証拠だ。
「プライベートだから内緒。ほかの人にも付き合ってることは秘密にしてね」
 なぜなら、それは嘘だから。
 もうお店に来ないだろうし、ちょっと仕返しするくらいいいよね。
 それに鮫島さんはプライドが高い。自分の彼氏よりハイレベルな男性と私がつきあっているとなれば、プライドが傷付くから言いふらすことはないだろう。
 彼女が睨んでくる。私は怯んで目をそらした。
「先輩にあの人は似合いませんから」
 言い捨てて、鮫島さんは背を向けた。

 残業を終え、駅に向かっていたときだった。
 辻谷さんが途中で声をかけてきた。
「駅まで一緒に、いい?」
「いいですけど……鮫島さんは?」
「蕾未ちゃんは飲み会だって」
 私は顔をしかめた。では明日は欠勤して私が仕事をすることになるか、体調悪いといって私に仕事を押し付けてくるか、どちらかだ。
「ちょっと川沿いを歩こうよ」
 断る理由もなかったのでそちらに行く。
 低い位置を流れる広い川沿いには遊歩道が整備され、花壇には花が咲いている。ペンタス、と書かれていた。星形の小さな花が固まって咲いている。白、ピンク、赤、と順番に並べて植えられていた。パッと見は花の絨毯があるように見えるほどだった。
 空は暗かったけど、外灯があって明るかった。日中の暑さを避けて犬の散歩をしている人がちらほらいる。
 会話が続かなかった。
 私は居心地悪くなった。断って駅に行けばよかった。
 小手鞠さんとの会話は、途切れることなどなかった。
 ずっと前からの仲の良い知り合いだったかのように話がはずんだ。
「香水変えた? すごく甘い匂いがする」
 ふいに辻谷さんが顔を近づけてくる。
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