一日限りの恋人のはずが予期せぬ愛にくるまれました
 小手鞠さんと渡辺さんの目が合う。
「また来るわ」
 渡辺さんはそう言って急に出て行った。
 小手鞠さんはつかつかと私に近寄り、たずねる。
「今の方は何をしに?」
「お客様のことは答えられません」
 そうとしか言えなかった。
 小手鞠さんは渡辺さんが出て行ったドアを見た。
 私には小手鞠さんが何を気にしているのかわからない。
「ところで、この人をどうにかしてくれないかというクレームは誰に言えばいい?」
「え?」
 私は小手鞠さんと鮫島さんを見た。
 彼女はむっとしたように小手鞠さんを見る。
「どれだけ断ってもしつこくて。君のことで大事な話があると言われて会ったらどうでもいい話ばかりされて」
「も、申し訳ございません」
 私は頭を下げた。なんで自分が謝るはめになるのか。
「君、俺とつきあってるんだって?」
 小声で囁かれ、私は顔をこわばらせた。
 鮫島さんが言ったのか。その嘘は彼女にしか言ってないのだから、そうに違いない。
「もう一つ、用事ができた」
 にやり、と笑って彼は私を抱きしめた。
 突然過ぎて声も出ない。
 次の瞬間。
「みんなに聞いてほしい! 彼女は俺の恋人で、運命の番だ!」
 大声で宣言された。
 愕然とした。
 フロアの全員が唖然として私たちを見ている。
 なんてこと言ってくれたんだ、と私は青ざめる。
 フロアにざわめきが走る。
「これで公認だな」
 にやり、と彼は笑う。
 運がない、と私は自分を呪った。
「忘れてください!」
 フロアに叫んでから、急いで引っ張って外に連れ出した。
「お騒がせしました」
 森下さんは店内に頭を下げてから私たちに続いた。
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