一日限りの恋人のはずが予期せぬ愛にくるまれました
「行ってません」
「俺としては早く確定させたいのだけど」
 言われて、気が付く。早く検査に行ってベータであるとわかってもらえばいいのか。
「近いうちに行きます」
「いつ?」
「今度の水曜日……て、明日ですね」
 お店は水曜定休だ。水曜休診の病院は多いが、探せばなんとかなるだろう。
「待ちきれないな。早くしてほしい」
 なぜか小手鞠さんの呼吸が荒くなってきた。
「やばい、君のフェロモンにあてられているかもしれない」
 私は自分の服の匂いを嗅いだ。
「オメガのフェロモンはアルファにしかわからない。しかも君はまだ完全にオメガになっていないようだ。フェロモンは弱い。俺は運命の番だから反応してしまう」
 言いながら、私を抱きしめる。
「ぎゃああああ!」
 思わず悲鳴を上げた。
「首を噛んでもいい? いいよね」
 首を——うなじを噛むということは番になるということだ。アルファとオメガの間にだけ存在する絆をつなぐ行動。番になるとオメガは番のアルファにしか発情しなくなるという。
「はいはい、落ち着きましょうね」
 森下さんがまたぷすっと首に注射を打った。
 うう、と小手鞠さんが刺された箇所を抑える。
「悲鳴を上げられるなんて。傷付く」
「今のはあなたが悪いですよ」
 注射器をかたづけながら、森下さんはばっさりと切る。
「そうだな。すまない」
 小手鞠さんが謝る。
 さっきから変に素直だな、と戸惑う。
「うちの社長、アホでかわいいでしょ」
 私の内心を察したかのように森下さんが言う。
「失礼だな」
 小手鞠さんがふてくされた。
 確かにちょっとかわいいかも。くすっと笑ってしまった。
「笑われたじゃないか」
 すねたような様子がおかしくて、さらに笑った。
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