一日限りの恋人のはずが予期せぬ愛にくるまれました
会社に戻ると、みんなの視線が痛かった。
小手鞠さんは一緒に来て山橋さんに説明した。
「彼女と恋人になれて浮かれてしまった。お騒がせしたのは謝罪します」
あれから小手鞠さんと話をして、恋人という設定は継続することになってしまった。
複雑な気持ちだった。
ときめきと痛みが同居して、絡み合っていた。
恋人だ、と彼がうれしそうにしているのがむしろ悲しい。
どうせすぐに離れてしまうのに。
明日になったらはっきりしてしまう。私が運命の番ではないことが。
病院に行ったあと、すぐに小手鞠さんに連絡することになった。
美容院に行きたかったのに病院に行くことになるとは、と皮肉さに内心で笑った。
連絡先も交換した。たぶん、一度だけしか使わない。診察を終えて連絡したら、きっとそれっきりだ。
忘れようと、残りの仕事に集中した。
鮫島さんが書類を持って寄って来たのは終業間際だった。
「私じゃできなくってぇ」
「できないままじゃ困るのはあなたよね。辻谷さんに教えてもらってやったらいいんじゃないかな」
気が付いたら言い返していた。
鮫島さんは憎々し気に私を睨んでくる。
帰り際、同僚が隣の席の人とぼそぼそとしゃべっているのが聞こえた。
「何あれ。アルファの恋人ができて調子にのってない?」
「しっ! 聞こえちゃうよ!」
何をしても結局、何かを言われる。
ばかばかしくなった。
だけど、本当に調子に乗っていなかったかときかれると自信がない。
鮫島さんについ言い返してしまったのがその表れではないだろうか。
浮かれていてはダメだ、と思う。どうせすぐに離れることになるのだ。たった一日の恋人だ。
一瞬でも大手の会社社長の恋人だったなんて、人生の記念になるじゃない。
それでいい、と自分を納得させようと思った。