一日限りの恋人のはずが予期せぬ愛にくるまれました
 川沿いの花を見ながら帰ろう、と思った。
 夏の日は長い。18時半の終業後でもまだ外は明るかった。
 ペンタスは今日もかわいく咲いている。
 結局、小手鞠さんと一緒に見ることはないだろうことが寂しい。
 歩いていると、横からぬっと人が現れた。
「ひっ」
 短い悲鳴を上げる。
「ごめん、驚かせて」
 辻谷さんだった。
 私は少し怖くなった。
 こんなタイミングで現れるなんて、待ち伏せか尾行でもされたかのようだった。
「人から聞いたんだけど、今日、君に恋人宣言をする人が現れたって」
 私はぎゅっと拳を握った。
「この前はそんなこと言ってなかった」
「好きな人がいるって言いました」
「蕾未ちゃんが言ってたんだ。君が本当に好きなのは俺だって」
 私は眩暈がしそうだった。この期におよんで、何を言っているのだろう。
「私が好きなのは小手鞠さんです」
「嘘つくなよ!」
 急な大声に、私は体を震わせた。
 髪は崩れ、シャツは乱れている。くまのできた目だけがぎらぎらと私を見ている。
 なるべく平静を装って声をかける。
「蕾未ちゃんに見られて誤解されたら大変ですよ。付き合ってるんでしょう?」
「それは間違いだ」
 辻谷さんが近寄ってくる。
 怖くて足が震える。
 助けを求める私の目に人影が映る。
「ほら、人も来ますし」
 言って、自分の目を疑った。
 小手鞠さんだった。
 一人でぶらぶらと歩いている。
 彼は私に気が付くと、タタッと駆け寄った。
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