一日限りの恋人のはずが予期せぬ愛にくるまれました
「偶然! やっぱり運命だな!」
 本当に偶然なのかあやしい。だけど今は助かった。安心感で涙が出そうだった。
「誰、この人」
 小手鞠さんは険しい目を辻谷さんに向けた。
「会社の先輩です」
 小手鞠さんの登場で、辻谷さんは急にしょぼくれた。おどおどして目線をそらし、そわそわと両手をこすりあわせる。
 私は目をしばたいた。人によってこんなに態度を変えるなんて。
「そうか。星菜がお世話になっている」
 私の肩を抱き、彼は言った。
「御用はもうお済みか?」
 終わりました、と小さな声で答えて、辻谷さんはとぼとぼと立ち去った。
 私は大きく息を吐いた。解放感で、どっと疲れた。
「大丈夫か?」
「大丈夫です。でも、どうして……?」
「君がここの花がきれいだと言ったから」
 まっすぐな目で言われて、胸がきゅんとなった。
「本当は君に会いたかった。でも森下に迷惑になるからやめろって言われてね。仕方なく君を思いながらここを歩いていたんだ」
 どうして恥ずかし気もなくこんなことを言えてしまうんだろう。また胸がしめつけられる。
「どうした?」
「なんでもないです」
 辻谷さんが怖かった。
 何をされるかわからないと思った。
 それを、小手鞠さんが助けてくれた。
 泣きそうになってうつむく。
 彼はそうっと遠慮がちに私の背に腕を回す。
「なんでもないなら良かった」
 私は小手鞠さんにぎゅっとしがみついた。
 彼の腕に力がこもる。そのまま私の頭に自分の頬を寄せた。
 しばらく、私は動けなかった。
 温かさが心地よかった。小手鞠さんの抱擁に、守られている感覚があった。
 このままずっと抱きしめられていたい。
 誘惑に勝てず、私は彼の胸に甘えた。
彼は私を落ち着かせるかのように、そのまま抱きしめていてくれた。
 ようやく私が顔を上げたとき、小手鞠さんは思い出したかのように言った。
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