一日限りの恋人のはずが予期せぬ愛にくるまれました
 鮫島さんだ。
 彼女は私を睨みつけ、指さす。
「この女は嘘つきよ! ベータだし、あなたの運命の番じゃないわ!」
 周囲の人がざわめきながら私たちを見比べる。
「落ち着いて」
 私はうろたえて声をかける。彼女は私をすりぬけて小手鞠さんに抱き着いた。
 とたん、小手鞠さんがうめいた。
 何が起きたのか、わからなかった。
「フェロモンだ!」
「オメガの匂いだ!」
 誰かが叫んだ。
「あなた、しっかりして!」
 どこかのご婦人が叫ぶ。
 周囲の男女の何人かの様子がおかしくなる。男性が多いようだ。
 小手鞠さんは何か苦しみながら、鮫島さんの肩をつかんだ。
 その目はぎらついていた。
 二人の間に割って入ろうとするが、鮫島さんは彼から離れない。小手鞠さんは片腕で鮫島さんを抱き寄せ、片手で引き離そうとしている。
「何をしたの!」
「私が運命の番ってことよ」
 勝ち誇ったように、鮫島さんが言う。
「嘘!」
 私は必死に二人を離そうとする。
「オメガがいる!」
「オメガ!」
 匂いの元をたどろうと探しまわるアルファの人たち。風で流されてその発生源がわからないようだった。
 はっと気がついた。
 このままでは鮫島さんが危ない。
「早く、逃げないと」
 鮫島さんはオメガだ。このままではアルファの集団に襲われる危険がある。ここに何人のアルファがいるのか、私にはわからない。
 小手鞠さんは葛藤しているかのように動かない。
 鮫島さんは自分の首を小手鞠さんに差し出している。
< 29 / 42 >

この作品をシェア

pagetop