一日限りの恋人のはずが予期せぬ愛にくるまれました
「私の首を噛めばいいの。それで番になれるわ」
「そんなこと言ってる場合!?」
 私は鮫島さんの腕を引っ張る。が、彼女はがんとして動こうとしない。
 おかしくなったアルファを、周りの人たちが抑える。が、数人の衝動が強い人はそれをふりほどこうと暴れ続けている。船員も駆けつけて、船上は完全にパニックだ。
 私と鮫島さんがもみあううち、彼女のバッグから小瓶が落ちた。ガシャン、と割れて液体が飛び散る。
「フェロモンが……」
 鮫島さんのつぶやきが聞こえた。
 これのせいか!
 私はとっさにその液体を手につけ、自分の首に塗った。
 小手鞠さんが私を見る。
 獣のような目に怯む。
 だけど。
 私はベータだ。
 噛まれても、番になることはないから安全なはずだ。
「あそこだ!」
「あっちにいるぞ!」
 アルファたちが一斉に私を見た。
 小手鞠さんはとっさに私にとびかかる。
「行くぞ!」
 私を連れて走る。
「先輩! 助けて!」
 取り残された鮫島さんが声を上げる。
「こいつだ!」
 鮫島さんがつかまるのが見えた。
「待って、止まって!」
 私が声を上げる。
「だめだ、君が危険になる」
 小手鞠さんはそのまま個室まで走った。
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