一日限りの恋人のはずが予期せぬ愛にくるまれました
「さっき、ベータでも危ないって……」
「そんなこと言ったか」
 小手鞠さんはしらっととぼけた。
「彼女は無事に救出された」
「良かった……」
「海に飛び込んだらしい」
「え!?」
「逃げるために飛び込んで、フェロモンは海で洗い流された。その後、船員が彼女を救出した。だから帰港が遅れた」
 時計を見る。10時前に戻るはずが、今は11時だ。
「それにしても無防備に寝てたな」
 言われて、とっさに服を確認する。乱れてはいない。
「何もしてないよ。俺が自制心の強い男だったことに感謝してほしい」
「自制心があったらあんなことしません」
 あんなどさくさまぎれのキス。
 恨みがましく小手鞠さんを見ると、彼は苦笑した。
「悪かった。だが、自制心があるからキスですんだんだ」
 無茶苦茶だ。
 だけどあのとき、私は――私の本能は、彼とのキスを歓迎していた。
 とろけるような感覚は、まだ生々しく心に残っている。
 それでも、と思う。
 この人は私を運命の番だと思っているからで、私を好きなわけではないのだ、と寂しく思った。
「ヒート反応の余波があったかもしれない。不快にさせてすまない」
 私の沈黙の意味を誤解し、小手鞠さんが謝る。
「大丈夫です」
 この人は傲慢なようでいて、非を認めたらすぐに謝ってくれる。
 そのちぐはぐさに心はふりまわされるが、基本的には優しい人なのだ。
 彼を理解していく自分が切ない。
 もう明日には終わりなのに。
「こんな結果で申し訳ない。気分転換のはずだったのに」
「いえ……」
「ちゃんと家まで送るよ。明日、病院に行く際は俺が迎えにいく」
「社長って暇なんですか」
「時間は作るものだ」
 押し問答の末、結局、迎えに来てもらうことになった。
< 34 / 42 >

この作品をシェア

pagetop