一日限りの恋人のはずが予期せぬ愛にくるまれました
「俺も迷惑だったんだよね。仕事中にどうでもいいことで話しかけられてさ」
でれでれだったじゃん、と私はあきれた。それに気づいたのか、男性が付け加えた。
「同じ職場の人間だから愛想よく対応してたけど、本心じゃないよ」
君は見たままを信じすぎる。
小手鞠さんに言われたことが蘇った。
ぜんぜん人のことが見えてない。
私は自分に失望してため息をついた。
オープンした直後、渡辺さんが来店した。
最初、彼女が渡辺さんだとわからなかった。
上品なスーツに身を包み、控えめな化粧はもともとの顔立ちをくっきりさせて、清々しかった。ピンと伸びた背筋から気品が溢れている。本革らしいブランドバックはピカピカだが、新しさよりも手入れされた愛用品という印象を受けた。
「今日は土地を売りに来たの」
私は驚きを隠せなかった。
「ごめんなさいね、今まで。不動産会社が嫌いで、八つ当たりしていたわ」
どういうことなのか、わからなかった。
「良い場所に少しばかり土地を持っていてね。しょっちゅういろんな不動産会社が来て、売ってくれってしつこくて、腹を立てていたの。だから逆にあちこちの不動産会社に行ってひやかして契約せずに、溜飲を下げていたの」
「そうなんですか」
この手のご婦人の「良い場所に少しばかり」は一等地に広々とした、だ。私は緊張した。
「あなたにずっと対応してもらって罪悪感が出て来たところに、店の前で甥っ子に会ってね」
「甥御さんですか」
「帰ってから、何してたんだ、って白状させられて、怒られたの。だから今日は謝りに来たの」
「そうなんですね。ありがとうございます」
そう答えるが、急展開についていけない。
「迷惑をかけたぶん、あなたの成績になることをしたいから土地を売りたいわ」
私は困惑した。土地の売買は人の手伝いをしたことはあるが、一人で担当したことはない。
何より、そんな理由で土地を売るのはこの人にとって良いこととは思えない。
でれでれだったじゃん、と私はあきれた。それに気づいたのか、男性が付け加えた。
「同じ職場の人間だから愛想よく対応してたけど、本心じゃないよ」
君は見たままを信じすぎる。
小手鞠さんに言われたことが蘇った。
ぜんぜん人のことが見えてない。
私は自分に失望してため息をついた。
オープンした直後、渡辺さんが来店した。
最初、彼女が渡辺さんだとわからなかった。
上品なスーツに身を包み、控えめな化粧はもともとの顔立ちをくっきりさせて、清々しかった。ピンと伸びた背筋から気品が溢れている。本革らしいブランドバックはピカピカだが、新しさよりも手入れされた愛用品という印象を受けた。
「今日は土地を売りに来たの」
私は驚きを隠せなかった。
「ごめんなさいね、今まで。不動産会社が嫌いで、八つ当たりしていたわ」
どういうことなのか、わからなかった。
「良い場所に少しばかり土地を持っていてね。しょっちゅういろんな不動産会社が来て、売ってくれってしつこくて、腹を立てていたの。だから逆にあちこちの不動産会社に行ってひやかして契約せずに、溜飲を下げていたの」
「そうなんですか」
この手のご婦人の「良い場所に少しばかり」は一等地に広々とした、だ。私は緊張した。
「あなたにずっと対応してもらって罪悪感が出て来たところに、店の前で甥っ子に会ってね」
「甥御さんですか」
「帰ってから、何してたんだ、って白状させられて、怒られたの。だから今日は謝りに来たの」
「そうなんですね。ありがとうございます」
そう答えるが、急展開についていけない。
「迷惑をかけたぶん、あなたの成績になることをしたいから土地を売りたいわ」
私は困惑した。土地の売買は人の手伝いをしたことはあるが、一人で担当したことはない。
何より、そんな理由で土地を売るのはこの人にとって良いこととは思えない。