愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
 少なくとも花純はちゃんと雅を愛している。
「紫苑て知ってる? 花の名前なんだ。デイジーに似た可憐な薄紫の花。紫は高貴な色だよ」
 紫苑は意地悪く笑う。明確で、攻撃的な悪意。
「雅ってバラがあるの知ってる? 薄桃色の気高いバラだ」
 花純は一歩下がる。早く話を打ち切りたい。
「花純って名前、あなたにピッタリだ。カスミソウって添え物じゃん。主役を引き立たせるためのただの脇役」
 花純はわなわなと震えた。
「僕のほうが若くて顔もいい。高貴な花同士で並んだほうがいいんだ。カスミソウの役目は終わりだよ。雅の戸籍を汚すなんて、絶対に許さないから」
 紫苑は勝ち誇ったように笑う。
「雅にふさわしいのは僕だ」
 紫苑はそう言って伝票を持ってレジに向かう。
 花純は呆然とうつむく。
 泣くもんか。婚約者は私だ。
 昨日だって、愛されたんだから。
 ぎゅっと手を握りしめる。
 その足元に、ぽたり、と雫が落ちた。

 仕事を終えた花純は書店に寄った。
 目的の本は雑誌コーナーの目立つところに平積みになっていた。
 イケメン御曹司図鑑。
 ぺらぺらとめくると、千ヶ崎紫苑のページがあった。
 千ヶ崎グループの末子。かわいいオメガ男子でモデルとしても大人気! と煽りがあった。私生活ではどうだとか、好みの人は男女問わずクールなイケメンだとか書いてあった。
 男女問わないんだ、と驚いた。自分だって女性と婚約しているのに、と思い直す。
 なんとなく別のページを見ると、雅が載っていた。
 相変わらずかっこいい。
 うっとりと眺めたあと、レジに持って行った。
 雑誌に載ったこと、教えてくれてもいいのに。
 ちょっと不満だったが、かっこいいから許す、と思った。
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