愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
「久しぶり、元気にしてる?」
 聞きたくない声だった。なんで花純の番号を知っているのだろうか。
「今、雅はどこにいると思う?」
 スマホを持つ手が震えた。
「今日、雅と僕は結納なんだ」
「嘘」
 婚約者は花純だ。なのに、結納なんて。
「最近、仕事で忙しいって言ってただろ? あれ、嘘だから。ずっと僕とデートしてたの。彼女、思ったより情熱的でびっくりした」
 絶句する花純。紫苑は勝利を確信したように笑いをもらした。
「うちでごはん食べてないでしょ? 帰ったらすぐに寝ちゃうでしょ。雅から求められてないでしょ。僕が雅を満たしているから、もう君は必要ないってこと」
 花純は答えない。答えられない。
「信じないなら来なよ。僕が選んだ振袖を着てる。とても素敵だ」
 一方的にホテルの名前を告げて、通話は切れた。
 罠だ。
 すぐに悟った。
 雅を信じてるなら絶対に行ってはいけない。
 雅は何も言ってなかった。
 ——そうだ。
 何も言ってくれないのだ。
 やっちまったと思っていることも仕事の大変さも何もかも。
 運命という言葉でごまかして、隠してきた。
 もう終わりが来たのかもしれない。
 まかしが通用しない、そのときが。
 花純はいてもたってもいられず、マンションを出た。

 目的のホテルのロビーに辿り着くと、自分の場違いな格好に気付いた。
 カットソーにジーンズという軽装で来てしまった。目立つ。
 ホテリエはなにも言わないが、客の目が白い。
 そういえば、とまた気付く。
 ホテルのどこにいるのか、紫苑はまったく言っていなかった。
 騙されたのかもしれない。
 そうであってほしい、と願う。
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