愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
「言えないようなことをしているのはあなたじゃないの?」
 雅が顔をしかめる。
 しまった、と顔をうつむける。
「何を見た。誰に何を言われた」
 花純はただ首をふる。
「怖い、やめて」
「ダメだ。言ってくれ」
 花純はただ首を降った。
 雅は花純を抱きしめる。
「あなたに言えないようなことなど何もしていない」
 だったら、どうして振袖なんか着て紫苑に会っていたの。
 疑問は、のどにつまってしまったかのように言葉にならない。
 言えば終わる。
 わかっている。
 終わらせたくない。
 この期に及んでまだあがく自分に、あきれると同時に悲しくなった。
「好きなの。愛してる」
 それだけが花純の真実だ。
「私もだ」
 抱きしめたまま、雅が言う。
 優しくて残酷な嘘だ、と花純は思う。
「だから言ってくれ。あなたの憂いを晴らしたい」
 花純は黙って首をふる。
 今の幸せを壊したくない。ずるくてもいい、卑怯でもいい。一緒にいたい。
 花純はぎゅっと雅に抱き着く。
 雅は大きく息をついた。
 嫌な予感がして、花純は雅を見た。雅は難しい顔をしていた。
「今日、ホテルに来ていただろう」
 花純はビクッとした。
 雅は抱き着いている花純を引きはがし、その目をしっかりと見据える。
「正直に言って。千ヶ崎にまた何か言われた?」
 花純は言えない。言うことができない。
 ホテルに行ったことを話したら、雅を信じていなかったと思われてしまう。
「もういい」
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