愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
 電話に出ると、明るい声が響いた。
「今ひまー? カラオケいこ!」
 花純は戸惑う。
 バイト先では仲良くしているし、メッセージでのやりとりもよくしていた。が、遊びの誘いは初めてだった。
「今から?」
「来てくれたらすごいサプライズがあるから!」
「ちょっと今は……」
「婚約者とケンカー? 犬も食わないよ!」
 けらけらと明るく笑う。
「とにかく来てね!」
 場所を告げ、待ってるから! と強引に言い残して通話が切れた。
 どこへ行けばいいのかわからない。
 今は、逃げ込める場所が欲しかった。
 花純は重い体をひきずって、その場所を目指した。

 言われたカラオケ店に着き、指定された部屋に向かう。
 どこからか男の歌声がもれてくる。客はほかにいないようだった。
 指定されていたそこは、パーティールームだった。
 中にいたのは、圭梛と、千ヶ崎紫苑。
「なんで」
 呆然と立ちすくみ、二人を見る。
 別室の男の、がなるような歌声が響いてくる。
「あなたを連れてきたらアルファの男の人を紹介してくれるって」
 圭梛はニタニタ笑っていた。
「ありがとう。あなたほど素敵なベータの女性、見たことないよ」
 紫苑はにこやかに圭梛に言う。天使のような笑顔だった。
「これ、アルファの男性の連絡先。先方にも伝えてあるから」
 紫苑は圭梛にメモを渡す。
「ありがとう!」
 圭梛は紫苑と固く握手をしてから、花純に向き直る。
「あなたのこと嫌いだったの。オメガの女ってアルファや男たちに媚び媚びで、フェロモンでたくさんのカップルを破壊して。でも私、優しくしてあげたわよね。なのにアルファの婚約者がいることを黙ってたなんて、とんでもない裏切りだわ。神様は不公平」
 憎々し気に言い放ち、ふん、と鼻を鳴らした。
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