愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
 紫苑が顔をしかめる。
「こんなものまで手に入れて。オメガの女って、本当に卑怯で狡猾」
 目の前で婚姻届けをびりびりに破かれた。
 ぱあっと放り投げる。紙吹雪のように室内に舞った。
「オメガ同士だから忘れているみたいだけど」
 ペロリ、と彼は自身の唇をなめる。
「僕、男なんだよね」
 ぞくり、と花純の背が震える。
「ふふ、怖いと思った?」
 紫苑は花純の顎をクイっと持ち上げる。
「大丈夫、襲ったりしないよ。僕の体が穢れる」
 花純の顎を振り払い、おしぼりで自身の手を拭った。
「あんまり薬の効果は出てないな。まさか、もう雅と番になった?」
 なんのことを言っているのか、わからなかった。頭の芯がしびれたようになっている。
「発情誘発剤を入れたんだけど。番になってる人は番以外にはフェロモンを出さないって、こんな感じなのかな」
 紫苑がひとりごちる。
「ちょっとは効いてるみたいだし、いっか」
 紫苑はスマホを取り出し、どこかへ電話する。すぐに通話は切れた。
 外から聞こえる歌声がやんだ。
「君はアルファがほしいだけだろ。あげるよ」
 紫苑が言った直後、五人の男が部屋に入って来る。
「発情したオメガと遊びたいんだって。アルファのみなさんだよ」
 花純がそちらを見ると、その中の一人に見覚えがあった。
 パーティーで雅と言い争っていた男だ。
「あいつには仕事をとられたんだ。俺がお前を寝取ってやったと知ったら、どれだけ思い知るか」
「俺は入札をとられた」
「俺は狙ってた女をとられた」
 全員が憎悪に満ちた目を花純に向ける。
 嘘だ、と花純は思う。
 雅がひどいことをするはずがない。
 この人たちはきっと雅を逆恨みしている。
 紫苑はくくっと笑う。
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