愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
 雅は追わなかった。その必要がないから。
 彼らにはなんの信念もない。ただ感情に流されて恨みをつのらせ、浅い計画で人を襲い、失敗したら逃げる。
「花純、大丈夫か」
 床に転がる婚約者を助け起こし、雅は言う。
 花純は思わず雅に抱き着いた。
「怖かった——!」
「二度と私から離れるな」
 優しく抱きしめ返して、雅は言う。
「私、いつも助けてもらってばっかり」
「それでいい。助けさせろ。それが私の喜びだ」
「でも、迷惑ばっかりかけて」
「いいから」
 雅は嗚咽を漏らす花純の口をキスで塞ぐ。
「すぐに来れなくて悪かった」
 言われて、花純は声を上げて泣いた。
 雅の優しさが、胸に痛かった。
 雅は泣き止むまで、花純の背を撫でてくれた。

 泣き止んだ花純は、雅の手のケガに気が付いた。
「血が……」
「かすり傷だ」
 ドアのガラスを割ったあと、鍵をあけるときに切ったのだ。
 秘書が店のおしぼりを雅に渡す。
「お着換えを用意してございます。お薬も」
 雅に紙袋を手渡す。
「カメラを切って参りますので」
 そう言って、部屋を出て行く。
「誘発剤の効きは弱かったみたいだけど、ヒートを抑える薬だ。飲んで」
 雅は締め上げた店員から薬を盛ったことを聞いていた。
 花純は薬とともにペットボトルを渡される。すぐに飲んだ。
「ここはほかに客がいない。カメラも切るから、着替えても大丈夫だ」
 二人は隣の部屋に移動して着替えた。
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