愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
 バンソウコウも入っていたので、花純はそれを雅の手の傷に貼る。
 戸惑いながら、花純も着替えた。
 膝丈でピンクのかわいらしいドレスだった。
「私の歳でこんなピンクなんて」
「似合ってるよ。かわいい」
 雅は花純の顎を持ち上げ、軽くキスをした。
「こんなことがあったばかりで悪いが、行きたいところがある。つきあってくれるか?」
 花純は頷いた。
 雅が甘く微笑する。花純にはそれがとても輝いて見えた。

「プライベートな用件で呼び出して悪かった」
 雅が詫びると、秘書は静かに笑った。
「お役に立てたようで、よろしゅうございました」
 秘書はカラオケ店に残り、二人を見送る。
 雅の車にはふわふわの上着と暖かそうなひざ掛けが用意されていた。
「使ってくれ」
 言われて、上着を羽織った。薄っぺらいドレスでは心もとなかった。
「それでも寒そうだな」
 くすりと笑って、雅は屋根を閉めた。
 車は高速に乗り、都市部を抜ける。
 途中のSAで軽く食事を済ませ、またすぐに車を走らせた。
 車内には最近雅がはまっているというジャズが静かに流れている。
「どうして婚姻届けを持って逃げた?」
「それは……」
 言い淀む。
 雅と一緒にいたい気持ちと、雅を自由にしたい気持ちが葛藤する。
 やがて、肩を落として、息をついた。
「あなたが好きだから。あなたを私に縛っちゃダメだと思ったの」
 雅は怪訝な顔で花純をちらりと見た。
「責任で結婚しようとしてるでしょ。本当はもっと別の人が……運命の番が、ほかにいるはず」
 私のようなどんくさい女ではなく、もっとふさわしい人が。
 言われた雅はあっけにとられて口を開けた。
「やっちまった、とあなたが言っていたから」
 花純は説明した。最初に結ばれたあの日、彼女がつぶやいたのを聞いてしまった、と。
 雅は難しい顔をしたあと、あ、と気が付く。
< 35 / 42 >

この作品をシェア

pagetop